【連載】日本在住17年目のミャンマー人が見たクーデター

ミャンマー国軍と占いと宗教についてまとめます。

国の首都というすごく大事な場所を大統領や軍の高官でもなく、地理や経済の学者でもない占い師が決めたと言われたら信じられますか？実際ミャンマーでは占い師が決めています。ヤンゴンから首都をネピドーに移した際は国軍は占い師の指示に沿って場所を決めました。

ミャンマー国民は占いが大好きで引越し、ビジネスの決め事、命名、政治活動、子供の出産日まで占いに頼ります。国軍の上層部も例外ではありません。国軍の高官は日頃の行いから魂が汚されてしまっています。それが理由で人間不信になり占いしか信頼できなくなっている人が多いのです。

首都の移転
2006年にミャンマーの首都はヤンゴンからネピドーに変わりました。ミャンマー中部にあるピンマナーという街の近くで山を削り、森を切り開いて新しいエリアが作られました。ミャンマー中部で夏には気温が40度以上にもなります。海や川から遠い場所で人口も少なく辺鄙と言わざるを得ない場所です。その場所は占い師によって決められたと言われています。

ネピドーの近くに占いの「おまじない」のために建てられた寺院があります。その寺院内に変わった仏像と変わった名前、変わった形の物体がたくさん建てられています。

寺院の中にある仏塔には語呂合わせの良い名前を付けます。例えば権力維持目的の場合は「権力維寺」、体制維持の場合は「体制維寺」のようなイメージです。また左手を後ろに回らせたものや、おかしな顔や表情の仏像が複数作られています。

その寺院で国軍関係者は出世や権力維持、敵対勢力の排除のためにまじないをします。これらの行為は魔術師や占い師の指導の元に行われています。

もちろんこれらの行為は仏教の規則に沿っていません。スー・チー政権が誕生してから、仏教の規則に反する仏像は作り直されました。

人に対するまじない
ヤンゴンのとある墓地に「チースーさん」という空の墓がまじないとして作られました。そのまじないの対象はミャンマー国家顧問のスー・チー氏です。スー・チー氏を占いで殺害しようとしたのです。

国軍最高司令官の失脚を目的としたまじないをヤンゴンの若い占い師がSNSに公開しました。すると数日後に逮捕状を片手に武装兵士がやってきて、その若い占い師を拘束しました。88年のクーデターの際も、有名な占い師が数多く不法に逮捕されたことがあります。

ヤンゴンにミャンマーで最も有名な寺院のシュエダゴン・パゴダがあります。シュエダゴン・パゴダ内の一角にタン・シュエ将軍（88年から2010年まで国軍最高司令官だった独裁者）に似せて作られた翡翠（ひすい）の仏像があります。これもタン・シュエ将軍を神として崇めさせるためのまじないと言われています。

宗教と洗脳
ミャンマーの80％の国民は仏教徒です。仏教に対して疑問を持っていません。というより、疑問を持つことが許されないのです。とりわけ、国軍は狂信的です。国軍兵士は仏教で洗脳されてきました。仏教を守るためと言われれば、どんな相手だろうと殺戮を起こせるようになっています。実際に、中国系やイスラム教徒などが不法に殺害されています。

仏教を使ったビジネスも盛んに行われて来ました。ゴールデンロックなどの有名寺院では寺院や歩道の修繕のために寄付を受け付ける場所がたくさんあります。それらの寄付受付場はほとんどが寺院と関係のない第三の業者が開設しています。複数業者が入札をして寺院の場所を確保します。入札した金額が寺院への寄付金になります。場所を確保できた業者はできだけ多くの寄付金を集めようとします。業者が集められる寄付金が寺院に収めた額より多ければ「儲け」になります。

2015年以降、スー・チー政権はそれらの実態を改善してきました。一方で、国軍はスー・チー政権を仏教の敵対勢力のように見せかけるプロパガンダを広めてきました。国軍の狙いは狂信的な仏教徒と国軍兵士がスー・チー氏への憎しみを増幅させることにあります。

仏教信者によって滅びる
弟子に「仏教はどう滅びるか」を聞かれたブッダは「仏教は信者に手によって滅びるだろう」と言い残しています。今まではありえないと思ってきましたが、クーデター以降の一連のできことをみるとブッダの言葉を認めざるを得ません。

ミャンマーでも仏教不信の若者が増えています。仏教の教えを捻じ曲げて先導している僧侶や寄付金を集めに熱心な僧侶がいると仏教不信者が増えるのは仕方ありません。政治が安定して裕福になってくると宗教の助けはいらなくなります。

今の若者は宗教の問題に気づき、宗教に頼らずに自分たちの力で問題を解決しようとしています。宗教、民族、人種の隔たりをなくして団結するのが唯一国軍に勝てる方法でもあります。

（続く）