日本在住17年目のミャンマー人が見たクーデター

クーデターへの国連と世界各国の反応
(本稿は2021年3月執筆です)

ミャンマーで起きたクーデターに対する国連の対応と世界各国の反応をまとめます。

2月5日に国連安全保障理事会(以下国連安保理)が開かれました。いつも通りロシアと中国は「内政不干渉」を訴えて意見がまとまらずに終わりました。国連理事国のイギリス主導で作成した声明文にも中国とロシアの反対により「軍事クーデター」というキーワードが除外されました。その後、ミャンマー情勢に関する国連特別セクションでは全加盟国が意見を述べ、欧米はクーデターを強く避難するように訴えました。一方、不干渉を訴えた国は中国、ロシア、ベネズエラ、フィリピンでした。

アメリカをはじめとした欧米諸国とオーストラリアは、経済制裁を始める措置を早速取りました。スー・チー氏のオーストラリア人の経済顧問ショーン・ターネル氏も拘束されたため、オーストラリアの外相からはスー・チー氏を始めとする不当に拘束されている人を全員開放するように直接電話で伝えられました。また、オーストラリアではミャンマー国軍関係者のビザ取り消しと銀行口座の凍結が行われ、初めて個人に対する制裁が実施されました。シンガポールでは、北朝鮮からの武器密輸を理由に国軍関係者のミャンマー人武器商人が逮捕されました。

ASEANでは、インドネシアの外相がミャンマーに訪問して国軍任命のミャンマー外相と対話することが確定し、ネット上で大炎上しました。後に、タイで対談することになりましたが、インドネシアとタイ両外相は国軍を政府として認めたのではなく、あくまでも非公式な会談としてミャンマーの情勢について懸念を伝えたとしています。マレーシア政府は、マレーシアの裁判所命令を無視してミャンマー難民1,086名強制送還しています。

在ミャンマー日本大使館の丸山大使が国軍任命の外相と会談し、独自のパイプで打開策を求めました。また、日本がミャンマーの赤十字や難民向けに20億円を支援すると発表しましたが、その資金が国軍に流れる恐れがあるとして非難の声があがりました。このほか、スリランカがBIMSTEC(ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ)の会議に国軍任命外相を招待したことで非難が殺到、即座に招待を取り消しました。

北欧ノルウェーではスー・チー氏を特集した番組が作成され、ミャンマーの歴史、アウンサン将軍、スー・チー氏の長期に渡る軟禁生活、ノーベル平和賞の受賞、そして2015年にNLDが政権をとった話しまで1時間30分に及ぶ内容で放送されたようです。韓国では、韓国人が一人で中国大使館に抗議デモを行っている様子が撮影されています。また、韓国国内の寺院のお坊さん達がミャンマーのために祈りを捧げました。直近では、ローマ法王がミャンマーの路上で暴力をやめるように国軍にお願いしたいと申し出てくれています。

3月に入り国軍の弾圧で犠牲者の数が増えてくると、各国の反応が変わってきました。ミャンマー外国投資額トップのシンガポールは、武力弾圧を強く非難するようになりました。マレーシアの議会は、一時的にミャンマーをASEANから排除するように求めました。アメリカと韓国政府は、ミャンマー国籍の不法滞在者の強制送還の停止やミャンマーの情勢が安定するまで滞在を許可すると決めました。インドでは、ミャンマーから逃げてきた警察と兵士を受け入ています。タイでは、ミャンマー国内の紛争が激しくなって逃げてくる難民のために難民キャンプを用意するなど、受け入れの準備をしています。

3月12日には、ロシア大統領報道官が国軍の弾圧による死者が増加している情勢について強い懸念を示したとの報道がありました。また、中国からもミャンマーの民主化継続と国軍との仲介役に意欲的だという発表がありました。いつもは内政不干渉を貫いてきたこの2か国の態度の変化は異例でした。3月10日の国連安保理でも意見がまとまり平和的な抗議活動に対する暴力を強く非難すると発表されました。中国、ロシア、インド、ベトナムの反対によりクーデターへの言及はありませんが、それでも状況が良くなっていると確信できます。

3月14日、国軍の策略によりミャンマー国内の中国人所有の工場が放火され中国人のけが人が出ました。中国外相は国軍に対して「全ての暴力行為を停止し、詳しく調べるよう求める」声明の発表とミャンマー国内にある中国人と中国人の所有資産に対して安全を確保するように強く求めました。工業団地のあるHlaing Thar Yar地区では、軍の弾圧によって80人以上が命を落としました。トルコ政府も国軍の武力弾圧を強く非難する声明を出しています。

最近では、日米豪印の4か国(QUAD)の動きも活発です。アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官が3月15日に来日しました。アメリカ北西部アラスカ州では、3月18日に米中会談が緊迫感を持って行われました。国軍の弾圧の悪化に伴い、ミャンマーを国連が3月15日に保護する責任(通称R2P)の対象国のランク上位のレッドゾーンに認定しました。

「ミルクティーアライアンス」という同盟により、香港、台湾、タイ、インド、インドネシアなどミルクティーが好きな国民同士で励まし合う国民同盟が結成されました。この同盟がネット上で各国でデモを呼びかけ、2月28日に各国でデモが行われました。それを機にタイでは反政府デモが再び始動しました。インドネシア以外の5か国は、すべて中国と対立しています。

その傍らで、ミャンマーにエールを送ってくれている台湾が中国の嫌がらせを受けていました。中国が台湾からのパイナップルの輸入を急に禁止したのです。在庫過多になったパイナップルの消費を有名人や大企業が呼びかけました。また中国に変わる世界各国への輸出と国内消費を奨励しました。すると4日間で昨年度の中国の輸入量の上回った5,000トンがすべて売れて台湾は団結力で無事パイナップル難を乗り越えました。これで中国の弱いものいじめの態度と台湾のパイナップルの美味しさがセットで世界中に知れ渡ったのでした。

各国の制裁が強まりフランス電力のEDFがミャンマーで約1,600億円規模の水力発電所建設を中断しました。韓国は国防分野での国軍との連携を停止すると発表しました。一方で、2月早々に軍閥企業と提携の停止を発表した日本のキリンが近々ミャンマー国内での業務再開を計画しているとの噂が出て、ミャンマー国民は困惑しています。日本はミャンマー国軍と太いパイプを持っているとされていますが実際は太い利権と言われていることもあります。

少数民族武装組織KNUによって兵糧援護ルートが制圧されているミャンマー国軍に対し、タイ国軍が米を700袋支援したとの噂がありました。インド政府もミャンマーから逃げてきた警察と軍人をミャンマー国軍に戻すように命令を出しています。アジアの政府は、民衆よりも利権を優先する態度がだんだん見えてきています。ミャンマーのクーデターのおかげで、アジア一体の各国の民衆主義の本質が問われようとしています。我々がこの戦いで勝利し、ミャンマーの春がアジア一体に広がって本当の民衆主義が現れるのもそう遠くないと思います。

(続く)

テウインアウン
日本在住17年目のWebエンジニア
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