日本在住17年目のミャンマー人が見たクーデター

ミャンマー国軍を弱体化させた犯人
(本稿は2021年5月執筆です)

上級将校の深刻な腐敗が有名なミャンマー国軍(以下国軍)は、クーデターに抗議している罪のない国民を残虐に殺害し略奪を繰り返しています。もはや国軍は国を守る軍隊ではなく、卑劣で残虐なテロリスト組織と認識されています。

最近になって、国軍は世界レベルでは38位と評価されていることを知りました。ASEAN地域の中でも上位に入る強さと言われています。世界はもちろん、ASEANなどの地域内でも貧困国家に分類されるミャンマーの国軍がなぜ世界では38位になるのかに注目していみたいと思います。ちなみに、僕が知る限りミャンマーが世界で1位になったランキングは米の消費量です。

軍隊の評価
今回は、世界中の軍隊を評価しているGlobal Firepower(以下GFP)という調査サイトを参考にしています。GFPは2006年から世界140か国の軍隊を分析して軍隊の強さで順位付けをしています。このGFPが、2021年に国軍を38位と評価しています。

GFPの評価方法
GFPは、軍隊の評価方法として兵士の数、装備されている武器の能力、所属国家の資源、経済力、立地条件などの50の項目をベースに分析し、ランク付けしています。GFPの所属国や運営元は公開されていません。GFPは各国が公開している情報、CIA World Factbook、Wikipedia、メディアと個人からの投稿情報などから軍隊の情報収集しています。実際は、政府機関や有名メディアもGFPの情報を引用していることが少なくありません。

国軍の38位という評価は高すぎると思われています。しかし、ASEANではインドネシアが16位、ミャンマーと比べると国土が約半分のベトナムは24位、隣のタイは26位なので、これら比べるとまだ低いです。また、ヤンゴンの人口密度と面積がほぼ同じぐらいのシンガポールも40位です。隣接国家で比較すると、中国は3位、インドは4位、面積がミャンマー3分の1のバングラデシュは45位、ラオスが118位となっています。国土や人口から相対で計算してみると、国軍は弱小の部類に入ります。

GFPの評価方法は軸
軍隊は格闘技のように闘って実力を測れないので、所属する国の要素をベースに様々な軸で評価されています。その軸を大きく分類すると、下記のようになっています。
- 軍隊の予算
- 人口(5,400万人のミャンマーは25位)
- 兵士の数(40万人のミャンマーは12位)
- 最新兵器の所有(潜水艦1隻あるだけで19位になり、持っていない場合は140位以下になる)
- 天然資源

国軍の予算
軍隊は基本的に国の防衛予算で費用をまかないます。ミャンマー場合は特殊で、国軍は軍閥企業からの収入もあります。そのなかでもMEHは軍閥最大企業です。MEHの子会社や関連企業は外国の様々な企業と提携して大きなビジネスネットワークを形成しています。

石油や天然ガス、港や中心地の不動産、携帯やインターネットの通信インフラ、銀行や保険といった金融業、食品と飲料メーカーなど社会で必要不可欠なあらゆる分野で高いシェアを保有しています。MEHの2011年の純利益は4,800万米ドルに上ります。MEHの利益は防衛設備調達機関が40%、退役と現役軍人が60%という形で分配されます。

ミャンマー国家防衛予算は過去5年で平均年間30億米ドルにもなります。MEHの利益を除いた国家の予算だけでも軍人一人に年間7,500米ドル(およそ80万円)が使われる計算になります。ミャンマーの大卒の月給のレンジは20,000~50,000円ほどです。そう考えると国軍の軍人は大卒のサラリーマンより裕福な生活を送れているように思えます。しかし下級軍人は基地内で自給自足と共働き、ときには副業で生活費を賄わなければならないのが現実です。

武器の調達というビジネス
国軍は、武器を輸入価格より数倍高い金額で調達しています。国軍上層部の深刻な腐敗が原因です。軍備の購入は、基本的に上層部の家族と関係者の商流により調達することになります。資金の流れをわかりづらくするため、実態のない会社や偽名、他人名義の会社で取引をさせます。また、納税しない企業も珍しくありません。

一方、隣接するタイはアメリカ、ロシア、中国を含む20か国以上から武器を輸入しています。それに比べてミャンマーは、6か国からしか輸入していないのも価格が高騰する原因の一つです。国軍は毎年武器を輸入していますが、前線の兵士には最新鋭の武器が配備されているわけではありません。

前線基地に配備されている錆びついた旧型の武器

タイの防衛費はミャンマーより低いですが、GFPの順位は26位になります。タイ兵士の生活基準は高く、将来が保障されています。

ミャンマー国軍は地域で比べると平均以上の防衛費が消費されていますが、実力は最下位レベルです。兵士への待遇は貧弱で、訓練に専念もできず生活に追われています。また、国を守るなどの「大義名分」を失って士気も下がる一方です。最近は、脱走兵やCDMに参加している兵士が増えています。その中には将校も含まれています。

国内戦闘での評価
チン州のミンダット市で猟銃を持った市民との戦いにより、30名以上の兵士が死亡しています。市民側の死者はいませんでした。同州のタムー市やカレイ市でも、市民の反撃によって国軍兵士の死傷者が出ています。

カチン州のKIA(カチン族の少数民族武装組織)との戦いでも国軍兵士が多数の死者を出しています。KIAとの戦いでは空軍に誤爆され、国軍の88師団所属の連隊が数百人規模の死者を出したという情報もあります。

カイン州KNU(カレン族少数民族武装組織)の統治地域は国軍の空爆を日々受けていますが、地上戦では国軍兵士は次から次へと基地を捨てて逃げています。「国軍は空爆するしか方法がなく地上戦では国軍兵士が弱すぎて戦闘になりません」とKNUの第5師団の将校が言います。

前線に送られないための手段
国軍兵士は、前線へ出向命令がくだされないように上長に賄賂を払うことがあります。階級によって支払う額が変わりますが、大尉は約80万円、少佐は150万円が相場のようです。もちろん、支払うことが出来るのはそれなりのコネと資金力がある人のみです。

下級兵士は基本的に生活に困っている人や、犯罪者、家出した少年、少数民族からの強制徴兵などにより入隊するのがほとんどです。将校の昇級には徴兵力が判断材料になるので、軍人としてふさわしくない人も奴隷のように売買されて入隊させられる仕組みが生まれます。

内部分裂と崩壊危機
国軍の将校同士や警察との打ち合いがおきています。モン州の基地では、連隊隊長とその部下全員が脱走したとの噂もあります。別の基地でも兵器保管庫が放火されたこともあります。

兵士は守るべき相手を殺害しているので、違和感を覚えます。今は守るべき相手がいないので、必死に戦う気持ちにもなれません。「だから、脱走したりCDMに参加したりする軍人が増えている」脱走した兵士が語ります。新たに入隊する新兵もいません。

兵士同士の殺し合いや、国軍内部でのクーデターの可能性はとても低いです。兵士は、国軍の行動を正すよりは自らの命を守るために逃げる人がほとんどです。国軍上層部は似たもの同士の集まりなので、最高司令官を引きずり下ろすことはしません。

今や国軍は、国民からの憎しみ、少数民族武装組織からの攻撃、外国からの圧力、経済的な圧迫、僧侶からの拒否などなど四方八方からの攻撃を受けています。
この戦いは、国軍と国民両者にとっても「引き分け」では終われません。大きな戦闘が起きずに国軍兵士の離反や脱走兵が増えて自然と弱体化していくのが理想的ですが、国民は国軍が解体されるまで戦いを続けます。

もちろん、僕は民衆が勝つと確信しています。

(続く)

テウインアウン
日本在住17年目のWebエンジニア
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