日本在住17年目のミャンマー人が見たクーデター

ミャンマー国軍兵士の内部事情
(本稿は2021年4月執筆です)

2月1日から約2か月で、国軍の兵士によって550名の罪のない市民が殺害されました。中には13歳と5歳などの子供7人も含まれています。またカレン族の村への空襲で20名以上の村人が命を落としました。

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3月28日にニューヨークタイムズ紙よる国軍の将校4名へのインタビューで国軍兵士が置かれている状況があらわになりました。将校4名のうち2名は既に脱走し残り2名も拘束される可能性が高い状態です。

ミャンマー国軍の兵士
兵士には一般下級兵士と士官防衛大学(DSA)の卒業生からなる将校と2種類あります。下級兵士は永遠に士官や将校にはなれません。将校になるにはビルマ族かつ仏教徒であることが必須です。他民族は軍の上層部にはいません。植民地時代の兵士の大部分を少数民族が占めていましたが、イギリスから独立して以来、国軍は計画的にビルマ族以外の兵士を排除してきました。

入隊当初から兵士は国家と仏教を守る使命のもとで働き、国軍がなければミャンマーは崩壊すると教えられます。下級兵士の平均給与は400,000Ks(約26,700円)とされています。そこから税金、保険や積立などが引かれて手元には150,000Ks(約10,000円)しか残りません。軍の生命保険は、最高司令官の息子が経営する保険会社のものになります。実際のところ兵士は何のために幾ら「抜かれて」いるか分かりません。もちろん、詳細を聞くこともできません。給与の一部が基地の管理部に横領されることも珍しくないのです。

兵士婦人は、ご主人の昇格や前線に送られないようにするために、高官婦人へ媚を売らなければなりません。また、子供がいる家庭は生活が厳しく、奥さんも基地近くの工場などで働く共働きが多いです。兵士は年間20日の有給休暇が与えられますが、基本的にまとめて休暇を取ることは許されません。

基地内で育った子供は、別の兵士の子供と結婚することが一般的です。さらに、生まれた子供はまた兵士になります。兵士は原則として自ら意思で辞職することはできず、戦死するか手足がなくならないと除隊されません。脱走兵になると親や子供まで迫害を受けることがあります。ミャンマー国軍は、60年間かけて上層部の既得権益を守るためにロボットのような兵士を作ってきたように思えます。

洗脳と監視
基本的に、兵士の行動は上層部に厳しく監視されます。兵士は、国民と自由に交わることがないように行動が制限されています。


兵士のほとんどは仏教徒で、仏教に対しての疑問を持っていません。そこで、偽の僧侶を使って仏教を使ったプロパガンダを広めて来ました。2010年からは、イスラム教徒の乱暴な姿を見せて説教をする偽の僧侶を使ってきました。国軍は、宗教と民族の対立を企てて兵士を支配しています。命令通りに動く兵士は、国家と仏教を守る英雄として褒め称えられます。

兵士たちは、国家と仏教の危機となるとなりふり構わず暴力を振ります。兵士は長らく暗黒の地で暮らしてきた為、人権というものを知りません。兵士の目には、平和的に抗議している市民も犯罪者として映ります。

クーデター後

上層部から「国民はクーデターへ抗議しているが国軍が崩壊することはない」と説明されています。クーデター以降、兵士は基地から15分以上の外出が禁止されました。クーデター当初から兵士はインターネットが使えていませんでしたが、3月に入ってから一部で使えるようになった模様です。インターネットにアクセスし、状況を理解できた途端に脱走する兵士が増えたそうです。

クーデター以前もFACEBOOKの投稿は国軍によって監視されていました。軍内部では、プロパガンダを広める情報部隊が構成されています。また、偽のアカウントで国民を扇動する活動が日常的に行われています。

国軍という小さな国
国軍は、もはや組織ではなく小さな一つの国のような形をしています。兵士は国民と交わることがないように隔離され、国軍上層部のためにこき使われています。2015年にNLD党が政権を握ってからも議席の25%を占めた軍人も他の政党と交わることがなく、独自の決定で議会に投票してきました。

卑劣さで有名な77師団に所属する大尉はインタビューで「僕は国軍が好きです。でも母国と国軍で片方を選ばなければならない時、兵士には母国を選んで欲しいのです」と語っています。。実際に、知識人の将校は家族のために軍から脱走する、あるいは脱走しようとして拘束された方も多いとの噂があります。少数民族との戦闘でも国軍からかなりの死傷者が出ています。今後は新たに入隊する人は現れないと思います。

近々CRPHから発表される連邦政府と連邦防衛軍が現れると国軍は消滅するでしょう。60年間続いた国軍の暗黒な歴史が終わろうとしています。国軍自らが定めた2008年憲法も廃止されました。これにより、過去に遡って国軍関係者を裁けるようになりました。国軍上層部やその家族、市民を殺害した兵士など悪事を働いてきた全員が責任を取らなければなりません。

これは軍の最高司令官が自ら選んだ道なのです。

(続く)

テウインアウン
日本在住17年目のWebエンジニア
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