日本在住17年目のミャンマー人が見たクーデター

前線の若者たちとの一夜
(本稿は2021年4月執筆です)

ある日、兄に頼まれてZ世代の若者たちを僕の狭い部屋に預かることになりました。

彼らはクーデターの抗議デモ隊に参加しているらしく、夜9時を過ぎて帰ることが出来ず困っていたそうです。彼らがデモ隊を先導する最前線で体を張っているということは、翌日に彼らが去った後に聞かされました。

「Z世代」とは一般的に20代前後の若者を指しますが、ミャンマーではクーデターの抗議に積極的に参加している若者の愛称として使います。

全員で15人で、一番上は24歳、下は14歳でした。14歳の子は背が低く、持っていたものは自分の身長と同じぐらいの頑丈なこん棒でした。しかも女の子だったのです。他の子達もほとんどが痩せ型で、がっちりした体型の子はいません。女子2人を僕の寝室を使うように指示し、僕と他の連中は他の空いているスペースを使ってもらいました。

お腹すいたのかと聞いたら全員口を揃えて「僕たちは食べてきました」と答えますが、どうみてもお腹がすいている様子でした。自宅にあるのは15人の食べ盛りにはとてもじゃないけど全く足りない食パンとクッキーしかないのですが、それを出しました。幸いお米は残っていたのでご飯を炊こうとしたのですが、自分たちでやると止められ、彼らの中の一人が炊くことになりました。

すると僕が「お前ら俺が信用できないのか?俺もご飯炊く経験が一週間ぐらいはあるから米をご飯にすることくらいはできるぞ!」と言ったら全員爆笑しました。ミャンマーでは米を釜(鉄鍋)で炊く習慣があり、慣れていない人はよく失敗するのです。16歳の子がご飯を炊こうとして洗った鍋も汚れが残っていた上、2合用の鍋に米を3合入れて炊いたために溢れてしまいました。慌てふためいた様子は未だに忘れられません。

15人の若者に残りの卵2個とソーセージ3本をどう分けるか悩んでると、彼らを預けてきた兄貴からの電話がかかってきて救われました。義理の姉が彼らのために食事を用意してくれたらしく「あと15分で、食事の用意ができるから取りに来い」との連絡でした。15人には十分とは言えないけど、楽しく和気あいあいと分け合いました。先程は「食べてきた」と言ってた奴らが米粒一つ残さず平らげました。その様子を見ている僕は「こんな若く、本来ならば自宅でお母さんのご飯を食べているはずなのに、こんなところで…」と思、気持ちが込み上げてしまいました。

グループにはミャンマーで有名なプロゲーマーの子がいて、会話してみると彼らのビジョンはとてもシンプルであることに気づきました。「僕らは政治に関しては全く興味がなく、元々はゲームの配信をしていた。でも、2月1日からは政治を正しく理解するために必死に学んできました。今まで僕らが知っていた情報は、軍のプロパガンダであることを気づいたからです」と彼は言いました。

質問もされました。

「兄貴、もし彼らが勝ってしまったらどうなる?」と聞いて来てきた直後に「いや、僕らが勝つのを信じているけど、ただ聞いてみたかったんだ」と補足してきました。

「国軍の独裁が根付いたら国民はより苦しくなる上、ウチらが払った税金は国軍に吸い上げられてしまう。国軍の関係者だけが利権を独占し、国民は残りカスしかもらえないから、国軍と仲良くして"うまくやる"習慣が生まれる。それが何世代か続くと、国民はそれを悪いことと思えなくなって負の連鎖が起き、最後には国が崩壊する」と僕が感じて来た問題と過去の経験を交えて説明しました。

「僕は今24歳だけど、手を合わせて将軍たちを拝む時代を体験してきた。絶対その時代に戻りたくない!もし、この革命に負けたら、僕は都会を離れて武装組織に入ると思う」と彼は語りました。

彼はさらに「その将軍たちって、そんなにダメなんですか?僕は信じられなくて」と聞いてきた。以前、軍の広報責任者の将軍が当時流行っていたトランプ大統領の言葉を真似て「Make Myanmar great again」と言うつもりが、そのまま「Make America great again」と記者会見で言い放ってしまった事件がありました。国民は、事あるごとにその動画をSNSで拡散して国軍の無能さ非難して来ました。国軍の記者会見は笑い話しとしてはとても面白いコンテンツです。

「それは俺もわからん。本当にバカなのか、もしくはわざとバカに見えるように仕向けている天才なのかな?それもあり得ない。とにかく、奴らの考える教育システムなんて、恐ろしくて想像できない」と僕は答えました。

ふと見回すと、残りの連中はそれぞれゲームや手遊び、それから歌でハモっている子もいました。彼らは昼はデモに参加し、夜は逃げ回る日々を過ごしています。国軍という卑劣かつ残虐な組織に歯向うのには、若すぎる気がします。ただ、彼らは自分たちの未来のために命を危険をかえりみず、行動し抗議を続けて来ました。彼らと真逆で、革命運動に対して文句しか言わず、何か言うたびに否定ばかりする大人はたくさんいます。

 一晩中話しましたが、弱音は一度も出ませんでした。彼らは、自分に出来ることを他人より多くやろうとします。将来のことは考えず、目先のことに集中します。気がづいたら、全員が一瞬で寝てしまったので今日も彼らは達成感ある一日を過ごしたのでしょう。

その晩、僕の狭い部屋で寝床や食事を提供できたこと、また彼らとの会話できたこと、若い世代の気持ちを知れたことは、この革命の中で僕が一番誇りに思えたことです。もちろん元気も付けられたし希望も見せられました。

朝起きたら、一番下の女の子が年上の男子たちに向けて「人間って死ぬ時はご飯食べながらでも、水飲みながらでも死んじゃうからね」って哲学的なこと言い放ちました。多分ここ2ヶ月で一生分の悲劇をみて悟ったのでしょう。



「僕らは権力なんて興味ないっすよ。人権が法律で守られて正義を遂行できる政府が現れば十分です。この革命が終わったら僕らはゲームの世界に戻ります。また友達と遊んだり、本を読んだり、旅行したりしたいです。今は、思う存分戦うけど」
と言い残して意気揚々と去って行きました。

率直で純粋、そして無欲の彼らが引張ってくれているのならば、間違いなく僕らは勝利すると確信しました。

※この記事はSNS上で語られていた体験談を和訳したものです。

(続く)

テウインアウン
日本在住17年目のWebエンジニア
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