親日ミャンマー人が現地で経験した2度目のクーデター

第8回「国軍が戦略を変更したのはなぜか」

 2月1日のクーデターが起こってから10日目の街中を観察してみた。昨日はレーダンにいたはずの軍隊がいないことに少し戸惑いを覚える。昨日、国軍がネピドーのデモ隊に発砲し、1人の死亡者が出たことで動きを控えようというのか……。今日は昨日よりも多くのデモ参加者が集まるのも承知の上で、あえて混乱を避けるための判断なのだろうか。過去の状況からも国軍は序盤から強行な姿勢を見せるはずなのに、なぜという疑問が拭えなかった。これまでの彼らの手法は、日に日に警察隊を前線に増やし、後ろに国軍兵士を置くパターンが一般的。だが、そうしないことが腑に落ちなかったのだ。

▲2月10日のレーダン交差点

理由は二通り考えられる。

 一つは軍隊が引いたことで、デモ隊が勢いづく時を狙って工作員を投入し、デモ隊を混乱させるという作戦。市民同士を闘わせることで暴動が起こる可能性もある。実際そうした手口は、8888運動にも使われ、ときに市民同士で虐殺まで起きた。手口としては刑務所から犯罪者を釈放し、倉庫、役所、家屋などで強盗、盗難、殺人、火事を引き起こし、社会的な不安を巧妙に作り出す。市民を反逆者とし、当時は公衆の面前で首を切られて処刑されたケースにまで発展した。そして、そこに軍隊が現れ、「我々は国の崩壊を守った」と大義を主張し、まるで映画のようなシナリオでクーデターを正当化した。ほとんどの海外メディアが「ビルマ人は野蛮」として報道したことを今でも覚えている。

 今回も刑務所から犯罪者を釈放したという噂が流れている。まだ確認は取れていないが、軍の支持者が武器を持ってデモ隊に混じっていることは確かだろう。ただし、我々はすぐに見分けがつくため、皆で情報共有しリスクを避けている。Z世代達にもそうした工作は通用しないはず。我々から過去の体験談が伝わっており、世代を超えて皆で一致団結して対処していく。

 二つ目の理由は、前日(2月9日)のネピドーでの発砲で軍評議会内の状況が変わり、強行策になればなるほど国際社会からの反発につながりかねないと考えたのかもしれない。軍評議会内でも強行手段は好ましくないと思っている人間はいるし、軍内部の人事異動の話も聞いている。
 国連安保理、アメリカ、欧米諸国、日本と東南アジア、さらに中国の圧力があり、身動きが取れない状態だと予想される。新聞もテレビもCDMに参加し、これから徐々に国全体が麻痺状態に陥るはず。現在のところ出口は見えない。

 前回のようにクーデターで政権を掌握しても国際社会からの孤立は避けられず、国民からも支持されるはずがない。彼らに政権を運営できる能力もない。

 日本の皆さん、今後も我々を見守ってください。よろしくお願いいたします。

(続く)

Bandee
1965年、ヤンゴン市生まれ。88年、ヤンゴン大学在学中に8888民主化運動に参加。91年に日本に留学し、語学を学ぶ。2004年にミャンマーに帰国後、ボランティアの日本語講師となる。現在は主に人材派遣の育成プログラムを作成し、教育事業を行っている