JETRO STREAM~日系企業動向、ミャンマーの新潮流を読み解く~

【コラム】 20201103

コロナ禍におけるミャンマーの経済動向(その2)
~今後の見通しは~

 前回は、コロナ禍におけるミャンマーの経済状況について、国際機関によるGDP 経済成長率予測、外国直接投資動向、貿易統計を検証しました。今月は、その他の参考指標を概観すると共に、今後のミャンマーの経済見通しについて述べたいと思います。

自動車販売は順調に推移
 耐久消費財の売れ行きに関する月次指標として、日系メーカー等が加盟するミャンマー自動車協会(AAM)の新車販売統計が参考になります。新型コロナウイルスの感染予防のため、車両登録を行う道路交通管理局(RTAD)が3月26日から業務を停止したことで、4月の販売台数は0台でありました。5月11日からRTAD が再開したことから、5月~8月期は前年同期比12.6%増の7,734台となり、単月の販売推移を見ても、5月1,253台、6月1,978台、7月2,258台、8月2,238台と回復傾向にありました。しかしながら、新型コロナウイルスの第二波の到来により、RTADは9月14日から再び閉鎖しており、新車登録ができなくなっております。消費者もメーカーも第二波収束後の早期再開を止む無く待っている状況にあります。

外国直接投資は順調に推移
 ミャンマー投資委員会(MIC)によれば、2019年10月~2020年7月期の外国直接投資認可額は、既に前会計年度(約42億ドル)を上回る約50億ドルと順調に推移しています。金額的には香港企業による電力投資やシンガポール企業による不動産投資などが上位を占めていますが、件数ベースでは219件が認可され、その約4分3が製造業への投資となっています。直近のコロナ禍においては、シンガポールのセムコープがレーグーにて436ヘクタールのインダストリアルパークの開発、日本のイオンモールは、ダゴンセイカンにおいて、2023年の開業を目指して第1号店の出店をそれぞれ発表しています。既述の製造業投資や各種大型プロジェクトは将来のミャンマーに対する投資家の信認の表れと見ています。

不動産市況はやや減速傾向
 不動産サービスのコリアーズ・インターナショナルによれば、2020年第2四半期のヤンゴン全体のオフィス占有率は対前期比で1.5%減、対前年同期比5.7%減の65.3%といった調査報告書を発表しています。また、2020年第2四半期のヤンゴン全体の小売施設の平均占有率は対前期比1.3%減の88%としています。数値的にはやや減速傾向が見られますが、同社によれば、ヤンゴンにおける主要な不動産開発案件の取り止めはないとしています。

今後の見通し
 このようにミャンマーでは、4月から5月にかけての新型コロナウイルスの第一波の到来とその対策を経つつ、足下の各種経済指標では回復傾向にあります。国際機関の予測に従えば、2020年度は引き続きプラス成長を維持する見込みとなっています。
 しかしながら、8月18日以降、ラカイン州をエピセンターとして新型コロナウイルスの感染拡大が全国に広がり、ヤンゴン管区では9月21日からほぼ全域において、一部の業種の社員を除き自宅待機命令が出状されています。

自宅待機命令で閑散とするピィ通り
 そうした中で、COVID-19予防・制御・治療国家中央委員会の委員長を務めるアウン・サン・スー・チー国家最高顧問は、新型コロナウイルスの感染予防と経済活動の両輪が必要不可欠であるとの認識を持ちつつ、今は、人命を最優先に、国民に「忍耐」を呼び掛け、これ以上感染が拡大しないよう、人の移動を最小限に留める対策を進めています。
 こうした措置が長引けば、実体経済へのマイナスの影響が出るのは必至ですが、ミャンマーで働かせて頂いている私たちも今は我慢の踏ん張りどころです。

(2020年11月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017年12月より現職。

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