【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

東京新聞記者 北川成史 氏(P.2)

ロヒンギャ問題を追求する理由とは
諸問題に共通する国軍の精神構造

永杉 赴任を終えたのは2020年9月とのことですから、クーデターが発生したのは帰国から約半年後のことです。知らせを聞いたときの心境を聞かせてください。

北川 半分はショックで、もう半分は「やはり起きたか」という気持ちです。
 NLD政権時代にASEANの国際会議を取材した際、アウン・サン・スー・チー国家顧問が出席をしている姿を間近で見て、心が震えたのを覚えています。あれだけ長い監禁生活を経て、彼女が国を代表する人物として国際会議に出席できるようになったことは、歴史に残る瞬間といえます。かつて大学時代に軟禁先の家を見に行こうと試みた経験があったので、なおさら感慨深かったのかもしれませんが、一つの国が変わっていくさまを間近で見る感動がありました。
 ところが、その人物が再び理不尽なやり方で拘束されたことは、本当にショックでした。私がそう思うくらいですから、ミャンマー人の心情はどれほどか想像もできません。
 一方で、知らせを聞いたとき「やはり起きたか」という思いがあったことも事実です。私が現地にいた頃から、知人のミャンマー人ジャーナリストはクーデターを心配していましたし、2月1日の数日前から良からぬ噂めいたものも耳に入ってきていたので、悪い予兆がその通りになってしまったという印象です。

永杉 クーデター後はミャンマーに関する記事を積極的に発表し、書籍の出版も続いています。お書きになった著書について教えてください。

北川 まず2021年7月に『ミャンマー政変―クーデターの深層を探る』を出版しました。この本では、国軍の成り立ちや、多民族国家であるミャンマーが抱える問題点などを通じて、クーデターの背景を探っています。
 次に2022年7月、『ミャンマーの矛盾―ロヒンギャ問題とスーチーの苦難』を上梓しました。ロヒンギャがミャンマー社会から疎外されるに至った歴史から、ロヒンギャ難民の現状まで幅広く取り上げています。
 そして今年8月、東京新聞外報部名義で出版した『報道弾圧―言論の自由に命を賭けた記者たち』に共著者として加わっています。これは、報道活動への締め付けが厳しいロシア、中国、そしてミャンマーなどの国々を中心に、ジャーナリストが置かれた状況を、特派員経験のある記者がレポートする内容です。

永杉 2冊目の著書の主要テーマにされているように、ロヒンギャ問題には以前から強い関心を示されています。

北川 ロヒンギャ問題については、クーデター後、世間からの注目度が低下してしまったように感じます。しかし、この問題は百万人規模の難民が発生している、世界的に見ても稀な人道危機です。クーデターが起きたからといって、ないがしろにされていいような問題ではありません。
 そもそも、ロヒンギャ迫害とクーデターは密接につながっている問題です。根本にあるのは、国軍上層部の精神構造、すなわち「自分たちの価値観と異なるものは、暴力を行使してでも徹底的に排除する」という思考です。以前は主にロヒンギャや他の少数民族に向けられてきた暴力が、クーデター後はビルマ人を含む広い範囲の市民に向かったという構造だと考えています。ロヒンギャ問題を取り上げることは、クーデターを始めとするミャンマーの諸問題を掘り下げることに直結するはずです。

▲ミャンマーの民主化を支援する議員連盟による院内集会にて(2023年2月)

ミャンマーの国内避難民は200万人以上に