【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

一般社団法人 日本ミャンマー未来会議代表 井本勝幸 氏(P.2)

永杉 井本さんは「ゼロファイター」という異名を持っています。これは、何の後ろ盾もなく、手持ちの資金さえ尽きたにもかかわらず、支援活動をやめない井本さんに対して、少数民族武装勢力の人々がつけたニックネームと聞いています。彼らも井本さんの真っ直ぐな思いに感銘を受けたことが想像できます。
そして、2011年の民主化に伴い、少数民族武装勢力の連合体「統一民族連邦評議会(UNFC)」が発足。井本さんは結成に際して多大な貢献をされています。

井本 評議会結成以前、各組織はバラバラでした。国軍からすれば少数民族に団結されると困るので、彼らが分断するような工作が行われていたのです。ですから、ミャンマー政府は当初、少数民族武装勢力を結びつける動きをする私のことを、疎ましく思っていたはずです。

永杉 しかし、ミャンマー政府はその井本さんを和平交渉の仲介役として頼ることになります。

井本 テイン・セイン政権になり、それまでの中国一辺倒の外交姿勢から、西側、特にアメリカとの関係を重視する姿勢に変わりました。関係構築にあたり、アメリカから出された「宿題」が少数民族との和平だったのです。そこで、少数民族武装勢力と広く関係を持つ私がネピドーに呼ばれ、当時の担当大臣から和平協議の協力を打診され、快諾しました。、

永杉 そして、和平協議が開始され、2015年の全土停戦協定へとつながりました。この動きと並行して、旧日本軍の遺骨収集事業も行っています。

井本
遺骨収集は、武装勢力側から提案を受けて始めたものです。ビルマ戦線で命を落とした旧日本軍兵士のご遺骨45,000柱を日本へ帰還させることを目的とする「一般社団法人日本ミャンマー未来会議」を立ち上げ、これまでに3,000柱以上のご遺骨を日本にお戻ししました。

▲KNPPのクー・ウー・レー議長も農業支援事業に合意
NGOやNPOの活動が国軍により制限を受ける

永杉 和平交渉、全土停戦、そして遺骨収集。一筋縄ではいかないことも多かったと思いますが、着実な歩みを進めていました。しかし、これらの事業すべてが水泡に帰すクーデターが、2021年2月に発生します。井本さんはクーデター後の早い段階から、避難民への人道支援活動を始められました。

井本 当時私はタイにいて、コロナで身動きがとれない状況でした。報道で軍と市民の衝突が激しくなるのを見て、私は近い将来、多くの難民がタイに押し寄せることになるだろうと予想していました。
そのため、比較的早く、国境地帯における人道支援活動を開始することができたのです。活動地域はおもにメーソート、メーホンソーン、メーサリアンなどで、タイ側はもちろん、時にはミャンマー側に入って食料支援などを続けてきました。

▲メーホーソンで協働するタイ王室プロジェクトの農場にて

永杉 現在もそうした支援活動を続けているのですか。

井本 現在はミャンマー国内での支援活動は行っていません。これには、ある理由があります。
ミャンマーに対する日本からの支援は、これまで大きく分けて2つのルートで行われてきました。ひとつ目は、日本の外務省が所管するJICAによる「国軍支配地域での人道支援」です。そして、もう一つは、我々のような民間のNGO、NPOが担う「少数民族武装勢力が支配する地域の人道支援」です。
後者に関しては、少数民族武装勢力の影響下にある地域とはいえ、他国のNGOやNPOが勝手に活動するわけではなく、ミャンマーの軍評議会(SAC)に登録をした上で活動をしなければなりません。ところが、昨年からこの登録業務がストップしてしまったのです。
軍評議会側の言い分は、「まもなく総選挙が行われ、その結果に従って新政権が樹立するので、非政府組織の活動については新政権と交渉をしてほしい」としています。しかし、軍の本音は「少数民族に利するような活動を制限したい」ということに尽きるでしょう。
これにより、多くの団体は正規の登録がないまま、活動を続けざるを得なくなっています。これが続くと、近い将来軍によって「少数民族武装勢力の支配地域で活動するNGOやNPOは非合法団体である」とされ、活動が制限される恐れがあります。この状況でミャンマーに渡り、支援活動をすることは得策ではありません。

永杉 では、現在はどのような形の支援を行っているのでしょうか。

井本 ミャンマーと国境を接するタイの農村の開発を行っています。国境線はありますが、国境の両岸には、同じ民族が住んでいます。本来ならば、同民族である彼らは、国境を越えて助け合えるはずなのですが、タイ側の農村は貧しく、ミャンマーを支援することはできません。そこで、まずはタイ側の農村地域を開発し、豊かにする必要があります。それが、巡り巡ってミャンマーへの支援につながるのです。
もちろん、ミャンマーで直接支援活動を行うことに比べれば遠回りの支援かもしれません。しかし、これが現状で行える最善の支援だと考えています。

ミャンマーの国内避難民は180万人以上に