【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

国際人権NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局プログラム・オフィサー 笠井哲平 氏(P.2)

永杉 ミャンマーとの初めての関わりはいつのことでしょうか。

笠井 ロイター時代に、ミャンマー大使館前で行われたロヒンギャの方々によるデモを取材したことがきっかけです。ロヒンギャの方々の切実な訴えに対して、一部の在日ミャンマー人の方々が「ロヒンギャ問題は捏造である」というカウンターデモを行っていました。それ以来、ロヒンギャ問題を追い続けています。

永杉 国軍がロヒンギャ問題の隠蔽や矮小化を謀っていたことは、現在では多くの人々が理解しています。しかし、クーデター以前は国軍のプロパガンダに乗せられていた人がいたことは事実です。恥ずかしながら、私自身も事実の矮小化を信じていた部分があるかもしれず、それについては考えを改めなければならないと思っています。
 そしてロヒンギャ問題も続く中の、2021年2月。国軍によるクーデターが発生しました。それ以来続く現状について、どのように見ていますか。

笠井 何をおいてもまず訴えたいのは、暴力の即時停止です。今現在もミャンマー各地では暴力や虐殺などの深刻な人権侵害が多数報告されています。これはすぐに止めなければいけません。そして、政治囚人の無条件解放。NLD議員もそうですし、デモに参加しただけで逮捕された人々も解放しなければいけません。まずはこの2つを最優先で是正し、その後に民主的な政権への回帰を進めるべきでしょう。

日本政府は「二枚舌外交」は止め毅然とした外交政策を推進すべき

永杉 「暴力の即時停止」「不当な拘束を受けている方の無条件解放」「民主政権への回帰」については、さまざまな国際機関が声明を出し、これらをミャンマーに求めてきました。ASEANが2021年に発表した「5つのコンセンサス」や、同年に日本の衆参両院で採択された軍事クーデターへの非難決議もそれに該当するでしょう。しかし、こうした声明が出されても、実効性のある行動はとれていないのが現状です。声明にとどまらず、ミャンマーが実際に良い方向に変わっていくためには、どうすればよいとお考えですか。

笠井 急ぐべきは、国軍への武器供給の停止です。ロシア・中国・インドの企業がミャンマーに武器を供給していることが明らかになっています。武器の供給停止は暴力の即時停止につながるので、国連安保理はこれをいち早く進めるべきです。
 また、ミン・アウン・フラインを始めとする国軍幹部を国際社会が訴追し、国際司法裁判所や国際刑事裁判所などで、彼らを正式に裁く手続きを加速させる、国際社会が共同で進めるべきことだと考えます。

永杉 日本政府はミャンマーに対してどのような動きを取るべきでしょうか。

笠井 「二枚舌外交」をやめることです。日本政府や外務省は、口ではクーデターを非難します。もちろん、それは本心でしょう。しかし、本当にクーデターに対して緊急性をもって向き合っているのかは疑問です。
 例えば、防衛省によるミャンマー国軍士官や士官候補生の受け入れ問題もそうです。クーデターが発生した2021年には4名を受け入れ、翌年も同じく4名を受け入れています。民主活動家の死刑執行を受けて、ようやく2023年から受け入れを停止することになりましたが、訓練中の士官については訓練が終わるまで防衛大学校などに在籍することになっています。これについては、クーデター後即時受け入れを停止し、在籍士官たちには訓練終了を待たずに帰国してもらうくらいの強い対応が必要だったのではないでしょうか。
 ODAの扱いについてもそうです。本来、人道支援以外のODAは即時停止するべきでした。しかし、実際は今も継続しており、先日も日本の大手橋梁メーカーが国軍系企業であるミャンマー・エコノミック・コーポレーションに約200万ドルという巨額な事業資金を送金しています。岸田首相はこの送金に対し、2月22日の衆議院予算委員会で「実態を把握した上で適切に対処する」と述べるにとどまっています。
 さらに、日本政府は経済制裁にも消極的な態度をとっています。本来は欧米と足並みを揃え、国軍幹部や国軍系企業に対する強力な標的制裁を課すべきですが、そこまでには至っていません。
 このように、クーデターに対する懸念や憂慮は表明するものの、実際には国軍に宥和的とも取れるような政策を実施するのならば、二枚舌外交であると言うほかありません。

▲国軍関係者の軍事訓練に反対する署名簿を防衛省に提出(2022年)

ミャンマーの国内避難民は180万人以上に