外国人が日本で働く際に必要な「在留資格」の基礎知識
「技能実習」と「特定技能」の違いとは?(2)

技能実習とは? 形骸化する目的と多くの問題点


海外人材採用に詳しくない方でも、「技能実習」という言葉は耳にしたことがあるはずです。

「外国人を採用する仕組み」といった漠然としたイメージとともに、技能実習生に関する各種報道に触れ、ネガティブな印象を抱く方も多いのではないでしょうか。

そもそも技能実習制度は1993年、「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的」(厚生労働省のサイトより引用)として創設されたものです。

つまり、開発途上国へ技術や技能を移転するための制度であり、多くの人が思うような「人手不足を解消するための、外国人を採用する仕組み」ではないのです。

しかし、実際は建設、繊維・衣服、機械・金属など人手不足が著しい業種において、研修と称しながら、人手不足解消の手段として使われているのが現実です。

創設の目的が形骸化していることも問題ですが、もっとも懸念すべき問題は、技能実習生に対する搾取や労働基準関連法令違反が横行していることと、失踪する技能実習生が相次いでいることです。

技能実習生に対する搾取や労働基準関連法令違反

前述の通り、技能実習の当初の目的は、「研修」です。

下の年表は技能実習制度の沿革ですが、2010年に改正法が施行されるまで、1年目の技能実習生は「研修中」とされ、日本の労働法令が適用されない状態が続いてました。

これを悪用した一部の受け入れ企業が極端な低賃金で仕事をさせたり、賃金不払い等が発生したりする問題が頻繁に起こっていました。

2010年以降は1年目から雇用契約が締結できるようになりましたが、いまだに受け入れ企業による残業代の不払いや、最低賃金以下しか給料を支払わないなどの問題が起こっているほか、実習先で暴力を受けるといったケースも相次いでいます。

厚生労働省では技能実習生の実習実施者(受け入れ企業)への監督指導を継続的に行っていますが、2022年に監督指導を実施した9,829事業場のうち、7,247事業場で労働基準関連法令違反(工場の安全問題なども含む)が認められる結果となっており、このうち悪質な21件は送検に至っています。

1982年(昭和57年)

在留資格「本邦の公私の機関により受け入れられて産業上の 技術又は技能を修得しようとするもの」が創設される

1990年(平成2年)

在留資格「研修」が創設。従来は個々の企業が採用などを 行っていたが、新たに「団体監理型」が開始

1993年(平成5年)

技能実習制度が創設。「研修」1年+「特定活動(技能実習)」1年で最大2年間

1997年(平成9年)

期間を延長。「研修」1年+「特定活動(技能実習)」2年で最大3年間

2010年(平成22年)

在留資格「技能実習」が創設。一部で実質的に低賃金労働者として扱われていたことを踏まえ、1年目から雇用契約を締結させ、労働法令が適用される。

2017年(平成29年)

技能実習法が施行。実習計画の認定制度や監理団体の許可制度が始まる。また、技能実習が1号・2号・3号に細分され、最大で5年まで期間が延長。

また、ニュースなどでも報じられている通り、技能実習生の失踪は社会問題となっています。

総務省が発表した失踪者数の推移を見てみると、2018年の9,052人をピークに、毎年6,000~8,000人程度の実習生が行方不明になっています。

失踪に至る原因はさまざまですが、主なものとして考えられるのは2つあります。

ひとつ目は、実習先(受け入れ企業)とのミスマッチです。日本人の場合、仕事や同僚がどうしても合わないときは、転職を考えることができます。しかし、技能実習生は原則として転職ができません。

状況を改善させるためには会社や同僚とのコミュニケーションが必要ですが、日本語によるコミュニケーションが困難な実習生も多く、誰にも相談できないまま失踪するというケースもあるようです。

もうひとつの主な原因は、借金問題です。

技能実習生の多くは母国の送り出し機関に対して手数料の名目で金銭を徴収され、借金を抱えて来日しています。

出入国在留管理庁が2022年7月に公表した「技能実習生の支払い費用に関する実態調査の結果について」によると、来日する前に母国の送り出し機関に金銭を支払った人の割合は全体で85.3%にのぼり、ミャンマーに限ると91.9%の実習生が送り出し機関にお金を支払っています。

また、来日するために借金をしたミャンマー人は47.9%で、その多くは来日後に給料から返済を続けています。

出入国在留管理庁「技能実習生の支払い費用に関する実態調査の結果について 」より引用

下表は、ミャンマー人が送り出し機関に支払った金額などの一覧です。送り出し機関への支払いは約28万円となっており、来日前に払いきれない人は借金をして、来日後の給料から支払いをしています。

給料は決して高額とはいえず、何年もかかってようやく完済する実習生はめずらしくあり
ません。

また、悪質な送り出し機関が介在すると、これ以上の借金を負うケースもあり、払いきれ
ない実習生が失踪するなどの問題につながっています。

送り出し機関に支払った費用総額の平均値

287,405円

借金の総額の平均値

315,561円

来日前に説明を受けた給料の平均値(控除前)

148,220円

このように、技能実習制度は当初の目的の形骸化や、実習生への人権侵害などさまざまな問題が発生したことにより、制度自体への見直しの声が上がっています。

2023年4月には政府の有識者会議が「技能実習制度を廃止し、新たな制度への移行」を提言しており、早ければ24年にも新たな制度が発足するのではないかと言われています。

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