バックナンバーはコチラ

技能実習から特定技能、高度技術者まで 日本就労を目指す人材

昨年より、特定技能制度が開始されたものの、一体実情はどうなっているのだろうか?
今後、日本政府は35万人の外国人労働の受け入れを発表し、当然ミャンマーにも注目が集まっている。今回は、各識者の意見とともに、日本での人材採用に関わる各企業を紹介。ミャンマー人の日本就労の現状を読み取ってほしい。


理想と現実の乖離

2019年4月、日本では特定技能制度が施行され、日本で就業する海外労働者は増加傾向。ミャンマー人の労働力にも注目度が高まり、すでに多くの人材が日本で就業している。現在、日本の企業はどういった形でミャンマー人雇用を求めているのか?J-SATの西垣代表に詳しく話を聞いた。

J-SAT代表取締役
西垣 充
Nishigaki Mitsuru

人材採用で重要なのは
制度よりもマッチング

─まずはミャンマー人雇用の現状を教えてください
 注目度としてはポスト・ベトナムとして期待に溢れる表現をよく耳にしますが、いい外国人がミャンマー人材だとは思わないでくださいと伝えています。今年で在緬24年になりますが、玉石混合の市場でミャンマー人を一括りに考えて失敗をしてきたので……。ミャンマー国内での状況から言えば、求職者は多いものの進出済みの日系企業からは、必要な人材が確保できないという声が多く聞かれます。「性格はいいが仕事ができない」、「そもそも仕事のことを理解していない」といったことです。決してミャンマー人が悪いとお話ししたいのではなく、今まで仕事を教わる機会がなかったため、教えて理解できる人とそうではない人が混在しています。まずは現実を見て、ミャンマーの実情を把握することが大切です。
 ミャンマーに進出している日系企業が、ミャンマー人を採用する際、多くの応募者がいるなか、いかにいい人材(自社が求める人材)を選ぶことができるかが重要になっています。日本からミャンマー人を採用したい企業が人材を選ぶポイントも同じで、単に日本語が話せるといった基準で採用するのではなく、きちんと見分けることが重要です。
 

─2019年4月に始まった特定技能の問い合わせは多いと思います
 おっしゃる通りです。外国人就労の新たな在留資格「特定技能1号」の宿泊業技能測定試験が、世界に先がけ昨年10月ミャンマーで行われました。続いて、ビルクリーニング業が12月に実施、今後外食業、介護、農業などの試験が行われますが、いずれも応募者が短時間で締め切られるなど注目度は高く、今後さらに普及していくと思われます。ただ、現在のような特定技能測定試験の定員数と実施回数では、希望者全員が受験するのは難しく、課題も山積。ただし、「特定技能1号」には、技能実習2号から在留資格を移行することができるようになり、技能実習制度を利用して最大合計10年(一部の職種は8年のみ)日本に滞在できるようになりました。制度による期間というハードルが下がっていて、どの制度で人材を受け入れるかよりも、どういった人材を採用するかが大切となってきています。
 

─技能実習制度はさまざまな問題があると言われていますが、その点についてはいかがでしょうか
 海外から外国人を採用しようとする場合、技能実習生、特定技能、高度人材という枠組みから決める企業が多いと思います。多くの日本の企業は、なんとなく「高度人材や特定技能がいい。技能実習生は逃亡する」といった偏見を持っていて、我々はそうした考え方が誤りであると指摘しています。それらはあくまで制度の違いだけであって、当然、高度人材にも問題を抱えているケースはあります。どの制度がいいというわけではなく、「人材の本質を見てください」とお客様にお伝えしています。それぞれの制度には、メリットとデメリットがあり、そこから会社にとって何が一番有益になるのかを検討すべきで、制度から導き出して、いい人材の獲得につながるわけではないのです。

▲特定技能試験はスタートしたものの、まだまだ見込み数には到底及ばない。日本国内の各省庁、さらには各国とのすり合わせもあるため、徐々に増えていくことが期待される。

いつかは母国に帰る人材
事前の情報共有が不可欠

─日本の企業の情報不足もあると思います
 外国人採用においての問題の多くは、不透明さが原因だと感じています。外国人材を採用したい企業の多くは、問題ばかりがマスコミなどを通して情報が入り、どうやって採用したらいいかわからないのが現実です。ミャンマー人を採用したいが、ミャンマー政府公認の日本への送り出し機関は262社(2020年1月末現在)もあり、どれを選んでいいのかわからない。そこで外国人を紹介する人材会社、監理組合頼みになるケースが多いようです。
 日本で勤務したいというミャンマー人も同様です。日本人もすべて理解できない制度を、ミャンマー人が理解することは難しい。日本に来た外国人が問題を起こす最も多い原因は「事前説明と違う」と言われています。仕事内容、待遇面などが事前の認識と違っていたケースです。日本での勤務を希望するミャンマー人の多くは、日本のことは知っていますが、日本で働くことを知らない。また、日本人では当たり前のことも、外国人には当たり前でないことも多く、一つ一つ具体的に、正確に伝えていくことが不可欠です。受け入れ企業、そこで働くミャンマー人、双方が透明性を持った関係作りをすることが大切です。
 

─日本まではなかなか現実が伝わっていかないと思います
 日本側でミャンマー人材の紹介をしている人材会社、監理組合には海外事務所を持つところはほとんどありませんので、日本国内での現実は伝わりますが、送り出し国の情報を詳しく知る企業は多くありません。例えば、「高度人材であれば、長く会社にいてくれる」といった考えは制度上間違いではありませんが、ほとんどのミャンマー人がいつかは母国のミャンマーに帰りたいと当然のように思っています。事前に帰ることを想定した上で採用しなければ、会社としてのリスクは避けられません。企業としては「一生懸命育てたのに帰国してしまった」ということになりますが、職場を選ぶ権利は誰にでもありますし、彼らにとって10年の日本経験はミャンマーでのキャリアアップにつながります。かといって10年働きたいと採用前に言っていても、現場で事前に説明されていない仕事まで任せてしまうと退職するケースも何度かありました。日本人ならある程度キャリアを積めば職域が広がるのは当然だと思っていますが、ミャンマー人は決してそうではないのです。そうしたことから起こる問題がミスコミュニケーションであり、それを解決するのが、事前情報とキャリアアップの透明化。ミャンマーの最低賃金が1日350円程度なので、10万円の手取りなら喜んでやってもらえるといった考えはそもそも誤りですし、ミャンマーの大卒がそのような条件で働いてくれるかといえば、それほど甘くはありません。
 

─やはり仕事の考え方については日本人と違いがありますね
 仕事への理解はまだまだ未熟ですし、そもそも働き方を知らない人材が多い。そのため日系企業の役目としてしっかり誰かが教えるべきであり、人材を受け入れた企業にはぜひそれを実践していただきたい。なぜなら、そうして教えられたミャンマー人はどういう人材になるかというと、未来のミャンマーのリーダー候補だと思うのです。採用した企業がミャンマー進出する際のキーパーソンになる場合も多く、実際昨年頃から、数年前にミャンマー人を採用し、彼ら、彼女らの帰国をタイミングにミャンマー進出する中小企業が増えてきています。きちんと働けるマインドを持った人材が将来ミャンマーに帰ってくれば、日本とミャンマーを結ぶ経済インパクトになりますし、ひいては日本の発展にも寄与してくれます。

▲識者として日本のテレビに取り上げられることもある西垣代表

▲ヤンゴンほか各地で定期的に学生向けのセミナーを行っている

情報乖離の問題を解決
するには透明化が必要

─前に西垣さんが、ミャンマーでは大卒でも働き口がなく、海外での働き口を探しているとおっしゃっていましたが、その状況は変わらないですか
 そうですね。ミャンマー政府労働省が発表した2018年度新規海外就職者数は約23万人でしたが、19年度は約30万人になったと報告がありました。しかしながら、だからといって日本の企業が高いレベルの人材を採用しやすいかというと、決してイコールではない。きちんとした人材はお金を稼ぐだけでなく、+α(プラス
 アルファ)を求めています。そういった意欲がある人材を、いかに見つけられるかが大切になっていきます。
 

─今後、御社ではどうやってより高いマッチングサービスを提供していくのですか
 我々が取り組んでいることは、人材紹介会社、受け入れ企業それぞれが「透明化しましょう」ということです。人材会社はどうやって人を集めて、どういった教育をして、どういった会社に送りたいのか、受け入れ企業はどういった待遇でどういった仕事をするのか、といったことを明確にし、それらを就業希望者とも情報を共有することが大切。日緬相互が透明性を持って理解することが不可欠です。
 

─なぜこのような不透明な構造になってしまったのでしょうか
 海受け入れ側である日本側ばかりに注目が集まっているからだと考えられます。つまり川下が重要視されてきました。受け入れ方法や受け入れ後をどうするのかといったことばかり議論され、事前にどういった人材を採用するかというところが手薄になっていると感じます。日本人を採用するときは、何度も面接をして時間をかけて採用しますよね。海外で外国人を採用するとなると会社案内もそこそこに、日本語ができるというだけで採用してしまうことが多く、問題が起きないわけがないのです。そのために日本到達後の川下だけではなく川上を強化、あらゆる情報を透明化し、事前に情報を共有することでミスマッチはある程度避けられると思います。

▲現在、日本には約280万人の外国人が在留しており、就業しているのが約146万人とされている。ミャンマー人は約3万人。 ※「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」(法務省)を加工して作成