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【コラム】 2021112

第2次NLD 政権の飛躍に向けて(その1)
~政治的、経済的な課題とは~

 11月8日、総選挙が実施され、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問率いる国民民主連盟(NLD)が連邦上下議会の改選数の83%にあたる396議席を獲得し、圧倒的な勝利を収めました。本稿では、2021年3月末の第2次NLD 政権の発足を控え、現時点における政治的な課題について、見ていきたいと思います。

大統領の選出
 第1に、2021年3月末までに新議会を招集し、新大統領を選出します。2008年憲法により上院、下院、国軍からそれぞれ副大統領を選出し、その3人の中から議会で1名を大統領に指名します。NLD が上下議会の過半数を有したことから、NLD が推薦する議員が大統領になるかと思われます。また、今政権中の時限立法である、国家最高顧問職の設置に関する法案を再度審議・成立させなくてはなりません。そして組閣にも注目が集まります。

少数民族武装勢力との和解
  第2に、少数民族武装勢力との和解を継続して推進していくことになります。第1次NLD 政権では2つの少数民族武装勢力との和解を果たしました。総選挙後、NLD は少数民族政党48党に向けて連邦国家樹立への協力を求める声明を発表し、少数民族政党側もその協力に応じる動きが出てきているところです。
 また、ラカイン州北部におけるイスラム教徒少数民族の難民問題に対しては、引き続きEU等の国際社会からのプレッシャーを受けることになる一方、ミャンマー国内の世論や感情にも配慮しながら、しかし、この複雑な民族問題を解決できるのは、国民から信認を得ているスー・チー国家最高顧問しかいないのも事実で、その動向が注目されます。
 こうした国民和解には、長い間、少数民族武装勢力と戦闘を繰り返してきた国軍との融和や国境を接する中国との協力体制の構築が必要となります。
 第3は、憲法改正です。NLDでは、真の民主化には、議会のすべての議席が民選で選ばれるべきと考えており、現憲法における25%の軍人議員枠の撤廃を掲げています。現国軍総司令官も引退後は政治に興味を示しているとの報道がある中、選挙をせずして25%の軍人議席が与えられる現憲法の改正に応じるとは思えず、引き続きハードルの高い課題として残ります。

次世代リーダーの育成
 スー・チー国家最高顧問は若手の登用や女性の活躍について常々言及されています。しかしながら、実際の閣僚の年齢をみると、70~80歳の方々が活躍されております。第2次NLD 政権では、現在、活躍されている閣僚が継続することも可能かと思いますが、5年先を見据えた国のリーダーを今から育成、登用しておく必要があります。そのため、次期政権の副大臣クラスのポストに誰がなるのか、注目が集まっています。(次月に続く)

(2021年1月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017年12月より現職。

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