なるほど! 納得!! ミャンマー法 ~駐在弁護士が気になる“あれこれ”を解説~

【コラム】 20201014


商標の優先登録申請が10月1日に開始
 8月28日付で商業省令が発せられ、商標法に基づく優先登録(既に商標を使用している人を保護するための優先的な登録)の申請受付が、10月1日に開始されることが発表されました。

優先登録の申請とは?
  ミャンマーでは、今まで商標法が存在しませんでしたが、2019年1月30日に商標法が成立しています。
 商標法が存在しない状況の下では、商標は文書等の登録所での登録と、自らが権利者であるという主張を新聞広告に掲載すること(商標警告:Trademark Caution)により、権利保護がなされていました。商標法の成立・施行により、全ての商標の保護は、新たに設置される知財庁での商標登録に移行し、新たに登録を行わない限り、商標権を主張することができなくなります。
 この知財庁の設置と正式な商標登録の手続は、来年前半に行われる予定であり、原則論としては、早く登録した人が優先的に商標権を取得できます。
 しかしながら、このような「早い者勝ち」の原則では、今まで商標を使ってきた人が商標を失うケースも生じ得るため、これまでの商標への社会の信頼が害される事態が懸念されます。
 そのため、本年10月1日から、正式な商標登録受付の開始までの数ヵ月間は、今まで商標を使用してきた人は優先的に登録の申請をすることができます。この場合、証拠から認定された「使用開始時」を基準時として、自己の商標権を主張することができます。

今、何をするべきか?
①これまでに、登録所での登録と新聞広告を行っている場合
 既に登録所での登録と新聞広告を行っている方は、10月1日以降、速やかに優先登録の申請を行い、商標法で商標を登録することが望ましいといえます。
②まだ登録所での登録と新聞広告を行っていない場合
 他方、まだ登録所での登録と新聞広告を行っていない方は、それ以外の商標使用の証拠(例えば、その商標を使用しており、日付の入ったインボイス、領収書、カタログ、広告等)を収集し、優先登録の申請をすることが望ましいです。商標使用の事実は証拠の総合評価で判断されますが、証拠としては登録所での登録と新聞広告が格段に強いといえます。知財庁の正式オープン(知財庁の設置、通常の商標登録の手続開始)までは、登録所での登録と新聞広告を行って、これを商標使用の証拠とすることができる可能性が高く、登録所での登録と新聞広告の手続を行うことも検討すべきでしょう。

手元にある使用証拠も再検討が必要
 過去に商標を使用していた証拠(登録所での登録と新聞広告を含む)については、その証拠で使用したと認められる業務の範囲でのみ優先登録の根拠となります。例えば、ホテル業で使用証拠があったとしても、これと異なる指定役務(例えば、食料品製造)について、優先登録を行うことはできません。より広い範囲で優先登録を行うためには、使用証拠がない分野について、新たに登録所での登録と新聞広告を行い、優先登録の申請を行うことも考えられます。

(2020年10月号掲載)

甲斐史朗(かい ふみあき)
TMI総合法律事務所パートナー(ミャンマー担当)。日本国弁護士。早稲田大学政治経済学部政治学科、ロンドン大学LLM卒業。2015年1月よりヤンゴンオフィス駐在。

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弁護士約420名、弁理士約80名を擁する日本の五大法律事務所の一つ。
ミャンマーには、日本の法律事務所として最初に進出し、2012年にヤンゴンオフィスを開設。

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