逆境を乗り越え、事業を継続する日系企業 稼働し続けるミャンマー縫製業(P.3)

HOPE ONE COMPANY

コロナ、政変も大きな影響はなし
人材は1日で確保できる

戒厳令下のラインタヤで事業を運営してきたHOPE ONE。現状の治安、人材採用など同地での事業の実情を聞いた。


現状治安の問題はなし
すでに人材は不足気味

 愛知県一宮市に本社を置く、40代以上の向け女性服の製造・販売を行う玉一商店のミャンマー工場、HOPE ONE COMPANY。2016年に最初の工場を設立し、19年に現在のラインタヤ郡区に工場を構え、現在スタッフ数は約640人という体制。

 現在製造する物はダウンなどの重衣料が多いが、春夏物も手がけ、1 年中忙しく稼働している。16ラインを有し、洗濯やプリント、刺繍などは同じラインタヤにある中国企業に外注する。ミシン約600台有し、7割が日本製。自社にメカニックがいるため、故障があれば、すぐに対処している。

 コロナ、政変の影響は大きく受けておらず、ほぼ100%で稼働中。営業時間は平日午前7時半~午後5時で土曜は正午まで。繁忙期であれば日曜日も稼働し、足立ダイレクターは「給料が2倍になるため、残業を望むスタッフは多いです」と話す。

 物流は現状問題はない。とはいえ、かつては資材を中国から陸送で入れていたが、コロナの影響で船便に変わった。

 順調に稼働していることから、すでに人材不足も起き、1ラインを止めている状態。今後100~200人の雇用を増やしたいとし、求人方法は工場の前に募集要綱を明記した看板を建て付けるだけだという。「仕事を求めて工場周辺をチェックしている人たちがいます。1日でかなり人は集まってきますよ」。また、スタッフ育成については3段階のマネジメントシステムを導入し、サブリーダー、リーダー、マネージャーといった形で統括している。

 政変後、戒厳令を発令されたラインタヤ郡区では、複数の工場が火災に遭うなど心配は尽きないが、足立ダイレクターは「現状、特に危険は感じていません」と語る。電力は時折停電が起きるものの、ジェネレーター2台で問題なく対応している。足立ダイレクターは「ミャンマー人スタッフは意欲があるので、指導する僕らも一生懸命やらないといけない。日系企業が縫製業を行うには、いい環境だと感じています」と締めくくった。

▲貧困地区として有名なラインタヤ。
工業団地周辺はバラック小屋が点在していた
▲16ラインを有し、640人が忙しく業務しているHOPE ONE。日曜日以外は稼働を続けている

MYANMAR GF 所長
石井 仁太[Ishii Jinta]

政変で大手が停止。検品企業の現状とは?
大打撃からのV字回復

アパレル物流&検品大手のGFは、政変によって大きな損失を被った。しかし、依然として同地のポテンシャルは高く、回復を見込んでいる。


縫製工場と異なる状況
政変による影響は大

 日本国内44拠点、海外50拠点を有するアパレル物流&検品大手のジーエフグループ。2009年にミャンマージーエフとして設立し、工場をミンガラドン郡区の東側に位置するシュエピタ郡区に構えた。

 業務範囲は、持ち込み検品から出張検品、持ち込み検針、インライン検査、アソート(物流アレンジ)など幅広い要望に応える。検品能力は重衣料は1日1万5000着、軽衣料は2万8000着を誇り、検針ラインは5ラインでハシマの機械を有する。アソートも強みの一つであり、重衣料なら1日1600カートン、中軽衣料は2400カートンが可能。取り扱いアイテムはコートから下着、靴、バッグなどあらゆる商品に対応する。イオンやしまむら、イトーヨーカドー、GUなどの大手を顧客を抱え、延べ160社と取引があるなど企業からの信頼も厚い。「開業当初はダウンジャケットしか扱っていませんでした」と話すのは立ち上げからこの地で従事する石井所長。2010年の平均不良率は驚愕の80%で、10年以上の時を経て、現在は20%ほどに落ち着いた。

 最初は30名でスタートした同社も一時は400名規模になったが、コロナ、政変を受け、大手顧客がミャンマー生産を止めたことで大打撃となり、現在は153名で現場を動かしている。「取引先の工場4軒が火事となり、さらには大手がストップしたことが大きかったです」。

 競合は20社ほど存在し、すでに撤退した企業から顧客を引き継ぐなどし、売り上げは昨対比で40%。すでに紹介したような縫製企業とは事情が大きく異なっている。

 顧客の国別の割合は6割が中国、2割が韓国、そして2割が日本という構成だが、商品の9割が日本向け。それだけ日本市場というのは高い品質レベルが求められるのだろう。

 敷地内に巨大保管スペースを有し、大規模なアソート作業も可能であり、物流まで一括して任せられるのはありがたい。日本語可能なスタッフを6人、中国語可能なスタッフ1人を抱え、今後の需要増に対応できる体制を整えていく。石井所長は「大手が復活し、目指すはV字回復です」と意気込んだ。

▲ハシマの検針機械を5台有する。製品一つ一つをPOSシステムのように管理し、その後段ボール詰め作業を行う