【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

カレン民族同盟(KNU)中央執行部 外務大臣 ソー・トー・ニー 氏

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今回のテーマ
長年にわたり国軍と対立してきたカレン民族組織

ソー・トー・ニー 氏 [Naw Susanna Hla Hla Soe]

カレン民族同盟(KNU)中央執行部 外務大臣
1964年生まれ。91年、ラングーン大学(現ヤンゴン大学)で文学士号を取得。翌年、カレン民族同盟に加入し、国内避難民への援助などの職務に従事する。99年から2006年まで、カレン人権グループの現地調査員としてカレン州などにおける人権侵害を記録する活動を行う。13年、タイ・チェンマイのパヤップ大学に留学し、組織開発を学ぶ。15年にミャンマー政府と全国停戦協定を締結後は和平プロセスに参加し、民族融和の活動を行ってきた。

国軍兵士の逃亡が多数発生
捕虜や傷病者は人道的に保護

永杉 タイ・ミャンマー国境地帯インタビューの第3回目は、カレン民族同盟(KNU)中央執行部の外務大臣ソー・トー・ニーさんにお話をうかがいます。
 KNUは1947年、カレン族指導者バ・ウー・ジー氏らによって結成された組織で、主にカレン族の自治権拡大を求めて活動しています。また、傘下組織にカレン民族解放軍(KNLA)を有する、少数民族武装勢力(EAO)としても知られています。
 トー・ニーさんは、KNUの閣僚として幅広い領域で活動されている方です。同盟内におけるご自身の役割をお聞かせください。

トー・ニー まず、外交を取り仕切る外務局の責任者を務めています。さらに、政策を決定する中央執行部の委員に加え、取材対応を行う報道官の役割も務めています。

永杉 日本の大手メディアでも、トー・ニーさんのお名前をたびたびお見かけしました。クーデター以降、取材要請も増えているのではないでしょうか。

トー・ニー 取材が増えたことで、ミャンマーの現状や、我々の考えを知ってもらう機会が増えたと思っています。2021年2月のクーデター後、国軍は各地で残虐行為を繰り返し、それを恐れた国民たちは家を追われ、今では新たに100万人を超える国内避難民が発生しています。このような現状をもっと世界に伝えてもらいたいと思います。
 一方、国軍が次第に瓦解し始めていることも併せてお伝えしたいのです。最前線では国軍の脱走兵が日に日に増加し、我々に助けを求めに来ています。私たちは、戦地における捕虜や傷病者を人道的に扱うことを定めたジュネーブ条約を遵守しています。そのため、脱走兵たちを保護して食事を与え、場合によっては家族のもとへ帰すサポートも行っています。先日取材に来た日本人ジャーナリストも、我々のこの取り組みを知って大変驚いていました。

永杉 一方、軍はクーデター以降、罪のない市民を虐殺するなどの暴挙を続けています。一連の軍の行動について、KNUとしてどのように考えていますか。

トー・ニー 国軍の上層部にある考えはただひとつ。永続的な権力の掌握です。そこには国民を思いやる心もなければ、民族に対する関心も理解もありません。権力維持の障壁となるならば、相手が誰であれ容赦はないのです。これまでは、カレン族やカチン族などの少数民族が攻撃対象でしたが、クーデター後はそれがビルマ族にも及ぶという結果になりました。
 上層部がそのような思想ですから、軍として統率など取れるはずがありません。兵士たちは国際人道法など何一つ守らず、国民に対する残虐行為を繰り返しているのです。

全民族が平等に暮らす未来のため軍事独裁政権を存続させない

永杉 1947年の結成以降、KNUはカレン族による民族自決を目指し、さまざまな活動を行ってきました。クーデターにより新たな局面を迎えた今、改めてKNUが目指している将来のビジョンを教えてください。

トー・ニー 連邦制民主主義国家の樹立です。我々は、カレン族だけが独立すれば良いなどとは考えていません。他の民族とも手を取り合って、誰もが平等に暮らせる国。それがカレン族にとっても、この国にとっても最善の将来像だと確信しています。これは、KNUが1956年に政策を策定して以降、一貫して変わらない理念です。
 これを達成するためには、軍事独裁体制はもちろん、いかなる独裁体制も認めることはできません。さらに、国軍が政治に深く関与することを定めた2008年憲法は、完全に廃止する必要があるでしょう。

永杉 軍事独裁体制を築こうとしている現在の国軍を打ち倒すためには、軍事衝突以外の手段はないものでしょうか。

トー・ニー 強くお伝えしたいのは、我々は望んで軍事行動を選択しているわけではないということです。KNUは創設以来、政治的な問題を対話によって解決することを切望してきました。しかし、対話では解決ができず、反対に弾圧が強まったことから仕方なく武装闘争の道に転じたのです。
 対話による解決は近年も模索され続けてきました。2012年の停戦協定、そして15年の全土停戦協定を立て続けに締結し、定期的な政治対話を行うところまで進展したのです。60年に及ぶ闘争の歴史のなかで犠牲になった人々のことを思うと辛い気持ちでしたが、それでも耐え忍んで政府や国軍と対話し、平和的解決の道を探っていたのです。全土停戦協定以降は、私自身も和平プロセスに参加してNLD議員らとの会談などを繰り返してきました。
 しかしそのような中、国軍はまたしても暴挙に及んだのです。1962年と88年に続く三度目のクーデターを起こし、暴力でこの国を支配しようとしました。彼らは今では全土停戦協定など完全に無視しています。我々はこれ以上、国軍に譲歩することも、話し合いに期待することもできません。連邦制民主主義国家樹立に向けた第1フェーズは、国軍の打倒以外にありえないのです。

永杉 国軍打倒以後の第2フェーズとして、どのような国家づくりを想定していますか。

トー・ニー 軍事独裁体制打倒後の第2フェーズは、連邦制民主主義国家への移行期になります。まず、移行期を統治する暫定政権が必要です。この政権下において、国内避難民の帰還や海外からの再投資を促進させるとともに、国民の意向を取り入れながら新憲法の草案を起草します。その後、選挙を経て暫定政権が役割を終えるところまでが第2フェーズとなるでしょう。
 暫定政権の組閣時には、現在国軍に抵抗するさまざまな組織から閣僚を選抜すべきです。現在のところ我々は国民統一政府(NUG)に参加していませんが、我々も暫定政権に入閣する意向です。ほかにも、市民不服従運動(CDM)組織や女性・青年組織などから幅広く人材を集めるべきです。

永杉 今、「我々はNUGに参加していない」とおっしゃいました。一般的に、NUGの中にカレン族やカレンニー族などの少数民族組織が参画しているというイメージがありますが、そうではないのですか。

トー・ニー 連邦制民主主義国家樹立を目指す、国民統一顧問評議会(NUCC)という大きな組織があります。NUGや我々KNU、そしてその他のCDM組織などは、このNUCCに参加しているのです。
 NUCCは所属する団体と頻繁に協議の場を設けており、各団体の政策に齟齬が生じていないかを管理しています。それはNUGも例外ではなく、彼らも週に一度はNUCCと協議をしていると聞いています。
 ですから、NUGの中にKNUがあるという認識は正確ではなく、NUCCという大きな枠の中にNUGやKNU、その他組織が対等に存在しているという方が正しい見方だと思います。
 もちろん、NUGとKNUの関係は良好です。現在のNUG駐日代表はカレン族で、KNU幹部の親戚にもあたりますし、彼は以前KNUで活動していたこともあります。

本当に必要なものは軍事支援
前線では医薬品も足りていない

永杉 ミャンマーは混乱を極め、多くの支援を必要としています。KNUとしては対外的にどのような支援を求めますか。

トー・ニー KNUとして切実に欲しているのは、軍事支援です。国際社会は軍事的支援に対しては及び腰で、現在のところ支援は得られていません。しかし、クーデター後の1年半で6,000回近くの戦闘が発生していて、軍事物資が慢性的に不足しています。日本の場合、軍事的支援ができないことは承知していますが、負傷した兵士たちに使用する医薬品の支援をしていただきたいと考えています。
 また、国内避難民への食糧・医療支援も急務です。国内避難民は増加の一途を辿っていて、彼らは日々食べるものにも困っています。また、過酷な生活環境による健康の悪化も心配です。昨年、我々はコロナによって深刻なダメージを受けました。沢山の高齢者が亡くなり、KNUの将軍も2名が命を落としました。KNUが統治する地域では、コロナワクチン接種が進まず、未接種者が48%に上るというデータがあります。今後もやってくるであろう疾病への対策は十分とはいえません。

永杉 国連や外国の組織が主導するいわゆる「通常の支援ルート」では、国軍の妨害もあり本当に支援を必要とする人々に届いていないという問題があります。

トー・ニー 我々は、通常ルートの支援活動では手が届かない避難民に対し、タイの組織の協力も得つつ、国境を越えて援助物資を届けています。これは本来、大きな声で言えることではありません。しかし、こうしなければ支援を届けることはできないのです。外国から支援されたコロナワクチンも、この方法で一部の避難民たちに届けました。

永杉 私は今夏、人道支援や民主化を支援する「ミャンマー国際支援機構(MIAO:ミャオ)」というNPOを、在日ミャンマー人や日本人、超党派の国会議員らとともに立ち上げました。その活動において、通常ルートでフォローできない人々への支援体制の構築が急務と考えています。私たちは軍事的支援はできませんが、国内避難民への食糧・医療支援に協力できればと考えています。本日はお忙しい中、貴重な時間を賜りましてありがとうございました。

(取材協力:ジャパンソサエティ井本勝幸 撮影 尾崎ゆうき)

永杉 豊 [Nagasugi Yutaka]

MJIホールディングス代表取締役
NPO法人ミャンマー国際支援機構代表理事

学生時代に起業、その後ロサンゼルス、上海、ヤンゴンに移住し現地法人を設立。2013年6月より日本及びミャンマーで情報誌「MYANMAR JAPON」を発行、ミャンマーニュースサイト「MYANMAR JAPONオンライン」とともに両メディアの統括編集長も務める。
(一社)日本ミャンマー友好協会副会長、(公社)日本ニュービジネス協議会連合会特別委員、UMFCCI(ミャンマー商工会議所連盟)、ヤンゴンロータリークラブに所属。近著に『ミャンマー危機 選択を迫られる日本』(扶桑社)。

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