【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

中谷 元 衆議院議員/逢沢一郎 衆議院議員

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今回のテーマ ミャンマーとウクライナ問題から人権を考える

中谷 元 [Nakatani Gen]

衆議院議員
内閣総理大臣補佐官(国際人権問題担当)

1957年生まれ、高知県出身。80年に防衛大学校本科(土木工学専攻)卒業後、陸上自衛隊に入隊。84年に退官し議員秘書を務めた後、90年に衆議院議員初当選。現在当選11回。国土政務次官、防衛庁長官などを経て2014年防衛大臣に就任する。21年、新設された内閣総理大臣補佐官(国際人権問題担当)に就任。人権外交を超党派で考える議員連盟の立ち上げに尽力するなど精力的な活動を続けている。

逢沢 一郎 [Aisawa Ichiro]

衆議院議員
日本・ミャンマー友好議員連盟会長

1954年生まれ、岡山県出身。慶應義塾大学工学部卒業後、松下政経塾に第一期生として入塾する。1986年、衆議院議員に初当選し、現在当選12回。2003年に外務副大臣に就任。自民党の国会対策委員長、衆議院の議院運営委員長や予算委員長など要職を歴任した。また、日本・ミャンマー友好議員連盟会長のほか、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)国会議員連盟会長も務めるなど、国際的な活動を続けている。

父親と離れ離れの子ども
心理的支援の拡充も必要

永杉 ミャンマーのクーデターから1年以上も経過しましたが、当地では今も多くの人々が苦しんでいます。そして、ロシアによるウクライナ侵攻という新たな悲劇も起き、またしても人権が脅かされる事態が発生しました。そのような社会情勢を受け、今回は衆議院議員の中谷元さん、そして同じく衆議院議員の逢沢一郎さんと鼎談形式で人権問題について考えてみたいと思います。まず、中谷さんにお聞きします。昨年11月、内閣総理大臣補佐官(国際人権問題担当)という新設のポストに就任されました。この経緯を教えてください。

中谷 香港、ウイグル、アフガニスタン、ミャンマー、そしてウクライナなど、現在世界では人権・人道に関する課題が山積しています。岸田内閣は人権など普遍的価値を守り抜くことを重視しているため、国際人権問題専門の担当補佐官を設けるに至りました。私は「人権外交を超党派で考える議員連盟」の共同会長に就くなど、同種の問題に取り組んできたこともあり、総理から補佐官に任命されました。

永杉 4月1~5日の日程で、林芳正外相らと共にウクライナからの避難民が集まるポーランドを訪問されました。現地の状況をお聞かせください。

中谷 ウクライナの人口は約4,400万人ですが、そのうち490万人が国外へ避難しており、ポーランドには280万人(4月18日現在)が身を寄せています。私はメディカという国境の町にある避難民センターを訪問しました。大規模展示場に簡易ベッドを敷き詰めた臨時施設で、間仕切りもない空間に2,500人が収容されていました。大半が女性と子どもです。幼少の子どものために用意されたプレイルームがあったのですが、入室するなり子どもたちが私に飛びついてきて離れようとしなかったのです。父親と離れ離れなので、父性を欲していたのだと思います。その姿は胸に迫るものがありました。彼らが健やかに育つよう、心理面のケアも必要だと感じました。

永杉 ロシア軍による人権侵害、戦争犯罪が指摘されていますが、どのように認識していますか。

中谷 キーウ近郊のブチャにおける虐殺が大きく報じられましたが、それ以外にもウクライナ各地でロシア軍による残虐かつ非人道的な行為が明らかになっています。多数の無辜の民間人殺害はジュネーヴ諸条約を含む重大な国際法違反の戦争犯罪です。ロシアはその責任を厳しく問われなければなりません。我が国としてもしっかりと糾弾していきます。

▲巨大なイベント場を改修した避難民滞在施設「グローバル・エキスポ」
▲メディカ国境検問所を訪問

永杉 日本・ミャンマー友好議員連盟会長である逢沢さんにお伺いします。ウクライナではロシア軍による侵略が続いていますが、ミャンマーでもいまだに国軍が自国民に対して虐殺を続け、これまでにおよそ1,800人の犠牲者が出ています。この行為をどう受け止めますか。

逢沢 軍というものは、外敵から自国民を守り、安全保障を確保するための存在です。しかし、彼らは罪のない一般市民に対して銃口を向け続けています。言語道断です。ミャンマー国軍はクーデター以前からロヒンギャの方々へ蛮行を働き、70~80万人ほどの人々がバングラデシュに逃れなければならない状況も引き起こしています。これらは一刻も早く正常化されなければいけません。

人道支援は新たな枠組みを
ASEAN諸国への働きかけも

永杉 中谷さんはミャンマー問題についてどのようにお考えですか。

中谷 先述の議員連盟会長の頃からミャンマー問題に対処しており、民主派の方々ともオンラインで会談したことがあります。そのため、私個人としても状況を憂慮しています。
 政府としては、国軍に対して「暴力の即時停止」「被拘束者の解放」「民主的な政体の早期回復」を引き続き強く求めています。また、国内避難民が数多く発生しているため、人道支援も必要です。我が国はクーデター以降、これまでに3,950万ドルの支援を行い、4月1日には830万ドルの追加支援を決定しました。

永杉 日本から困窮するミャンマーの人々へ人道支援を行うことは、とても大切なことです。一方、現状の枠組みにおける支援活動の限界も見えてきています。今の支援方法では国軍と対立する組織に支援物資が行き届かなかったり、途中で窃取されたりする事態が発生しています。逢沢さんはこの問題に対してどのようなご見解をお持ちですか。

逢沢 これは難しい問題です。支援物資の一部が国軍に渡っている可能性があることは聞き及んでいます。しかし、現実問題として国軍が全土を実効支配するミャンマーにおいて、本当に困っている人だけにピンポイントで支援することは技術的に困難です。かといって国軍にまったく渡らないように支援自体を止めてしまうことはできません。今できることは、適切に物資が届いているかを精査し、その上で国際機関だけでなく一部の信頼できるNGOなどのルートも使って支援を続けることでしょう。

▲︎IOM、UNHCR、WFP、WHO及びNGOの代表者との意見交換

永杉 実際に支援活動をしている方によると、支援物資として用意されたコメが現地に届けられる過程で、破砕米にすり替わっていたという報告も寄せられています。私はこの件に強い問題意識を持っており、こうした横流しなどを可能な限りなくすために「NPO法人ミャンマー国際支援機構」を立ち上げることにしました。この組織を通じて、本当に困っている人々へ、物資が直接届く仕組みづくりに寄与したいと考えています。

中谷 我が国の人道支援は国軍を利するものでは決してありません。外務省においては国際機関やASEAN事務局とも連携しつつ、困難に直面しているミャンマーの人々に寄り添うべく、人道支援を積極的に実施していると理解していますが、どのような対応が効果的か総合的に検討していくものと思います。

永杉 昨年4月にASEAN首脳会議で暴力の即時停止などを求める「5つのコンセンサス」が示されました。また、日本でも昨年6月に「ミャンマー国軍に対する非難決議」が衆参両院で採択されています。しかし、国軍はこれらすべてを無視し続けている状態です。さらに本年4月3日には、ミャンマー国内の口座に着金した外貨は1営業日以内にミャンマー・チャットに両替しなければならないという一方的な通告を行い、日本や欧米企業の活動を阻害するような動きを見せています。このように、ミャンマーの現状は膠着というよりも悪化しているように感じています。これに対処するため、日本も欧米のようにミャンマーに対して厳しい経済制裁を課すべきではとの声もあります。

逢沢 今のミャンマーに対して、これ以上の経済制裁が有効かというと必ずしもそうではないと思います。国軍は諸外国との経済的なつながりが先細ることを恐れていません。もし恐れていたら、今回の強制両替政策は選択しないでしょう。彼らは国が貧しくなろうが構わないというスタンスのように見えます。ですから、今は制裁ではなく、外交努力を粘り強く続けるしかありません。
 影響力の強いASEANにも期待したいのですが、必ずしもASEAN諸国の足並みはそろっていません。ジャカルタで確認した5項目のコンセンサスを、一致して強くミャンマー国軍に求め結果を出して欲しいと思います。ASEAN諸国にも独裁的国家が増えており、ミャンマーへ強く意見できない状況になっていることも懸念しています。

中谷 現在の東南アジアではベトナム、タイ、カンボジア、ラオスが権威主義的な政権下にあります。経済を優先して国の発展を目指す中で、強いリーダーシップが求められた結果、このような政体になったという背景は理解できます。しかし、その体制には限界があります。国の安定的な発展のためには民主主義の維持が不可欠です。我が国としては、ミャンマーだけでなく、ASEAN諸国にもこうした理念をしっかりと伝えるべきでしょう。

世界情勢に鑑み岸田政権にふさわしい人権外交を(中谷)
人権問題を率直に指摘し合う国家関係が理想像(逢沢)

岸田政権にふさわしい人権外交
力による現状変更の試みを許さない

永杉 アメリカには人権侵害に加担した個人に対して、資産凍結や入国制限を行うマグニツキー法という法律があります。今、この日本版を作ろうという動きがあります。これを主導しているのが、中谷さんが初代共同会長を務められた「人権外交を超党派で考える議員連盟」です。この法案について教えてください。

中谷 今回のウクライナ侵略を受けて、一部ロシア人団体に対して経済制裁を行っており、外為法の枠組みの中で彼らに厳しい制限をつけています。これはウクライナでの事態の解決を目指す国際平和のための国際的な努力に、我が国として寄与することを根拠に制裁を行っています。一方、現行法では他国で起こった人権侵害を直接の根拠にして個人に対する経済制裁を行うことはできません。ご指摘のような人権侵害を認定して制裁を課すような制度を日本も導入すべきかについては、これまでの人権外交を踏まえ、全体を見ながら、国会や党の方からもご意見をいただき、引き続き検討していきます。

逢沢 「内政干渉はしない」という言葉自体、聞こえはいいものです。しかし、それが人権や人道に関わることなら話は別です。他国が人権を脅かしているのなら、どの国であっても率直に指摘しなければいけません。日本にも人権・人道の問題がないわけではありませんが、それを他国に指摘されたら真摯に耳を傾け是正する必要があります。
 必要に応じてこうした法律も行使しながら、国同士がお互いの人道や人権に関わる問題を率直に指摘しあえる状態こそが、国際社会が目指すべき姿ではないでしょうか。

永杉 ミャンマーもウクライナも、力による現状変更を目論む勢力の存在が共通しています。彼らに対して毅然とした態度を取るためにも、日本版マグニツキー法の成立は不可欠だと思います。議論が進み、法制化されることを期待しています。本日は公務ご多忙の折にもかかわらず、誠にありがとうございました。

永杉 豊 [Nagasugi Yutaka]

MJIホールディングス代表取締役
NPO法人ミャンマー国際支援機構代表理事

学生時代に起業、その後ロサンゼルス、上海、ヤンゴンに移住し現地法人を設立。2013年6月より日本及びミャンマーで情報誌「MYANMAR JAPON」を発行、ミャンマーニュースサイト「MYANMAR JAPONオンライン」とともに両メディアの統括編集長も務める。(一社)日本ミャンマー友好協会副会長、(公社)日本ニュービジネス協議会連合会特別委員、UMFCCI(ミャンマー商工会議所連盟)、ヤンゴンロータリークラブに所属。近著に『ミャンマー危機 選択を迫られる日本』(扶桑社)。