【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

石橋通宏 参議院議員

今回のテーマ:ミャンマーの民主化を支援する国会議員

石橋通宏 [Mr.Ishibashi Michihiro]

参議院議員
1965年島根県生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。米国アラバマ大学大学院修了(政治学修士)。92年全電通中央本部入職。2001年から国際労働機関(ILO)で勤務し、I LO国際研修センターの企画官(在イタリア)やI LO労働者活動局の上級専門官(在フィリピン)として労働組合活動家の育成に携わるなど国際労働運動の領域で活躍。2010年、第22回参議院議員選挙において初当選。現在2期目。ミャンマーの民主化を支援する議員連盟では事務局長を務める。

超党派議員連盟が主導した国軍への非難決議が国会で採択
緊急人道支援を進めるとともに早期にNUGを承認すべき

労働運動や専門機関で深めた民主化運動とのつながり

永杉 今回は参議院議員の石橋通宏さんにお話をうかがいます。石橋さんは長年ミャンマー民主化のための支援を続けられており、国会では超党派で構成される「ミャンマーの民主化を支援する議員連盟」の事務局長も務められております。まず、これまでのミャンマーとの関わりについて教えてください。

石橋 私は1992年から労働運動、とりわけ国際労働運動のフィールドで活動してきました。労働運動と民主化の運動には密接な関係があります。労働者の権利や安心・安全を守るためには、政治が民主的でなければいけませんし、何より平和でなければなりません。そのために国際労働運動の現場では、民主化へのサポートが積極的に行われているのです。
 1994年に、国際自由労連・アジア太平洋地域事務所(ICFTU-APRO、現ITUC-APRO)へ出向した際、自国の民主化のために国外に逃れて活動していたミャンマー人労働組合活動家の皆さんと出会い、一緒に仕事をしたのが、ミャンマーの民主化との初めての関わりでした。さらに2001年から国際労働機関(ILO)の国際研修センターで勤務した際に、ミャンマーを含むアジア太平洋各国の労働活動家の育成事業に携わったのですが、当時、タイやインドで活動していたミャンマー人労組活動家や、ミャンマーから国境を越えて参加してくる若手リーダー向けの教育訓練プログラムを実施するなど民主化運動の支援をしました。2010年以降の民主化の進展の中で、その時に一緒に活動した活動家の多くがミャンマー国内に戻り、この間の民主化運動や労働組合創設の牽引役になってくれていたのですが、今回の軍事クーデターですべてが水泡に帰してしまったことは本当に残念でなりません。
 2010年から国会議員になりましたが、それまで続けてきた民主化への後押しを、今度は国会議員の立場で政治の側から継続するため、ミャンマーの民主化を支援する議員連盟に加入し、現在は事務局長を務めています。

国会決議は日本国民の決意表明
人道支援は緊急時の工夫が必要

永杉 超党派の有志国会議員で構成される「ミャンマーの民主化を支援する議員連盟」は、クーデター以後、積極的に発言を続けています。そして同連盟が主導する形で6月、ミャンマー国軍に対する非難決議が衆参両院で採択されました。ここに至る経緯を教えてください。

石橋 2月1日にクーデターが発生して以後、議員連盟としてすぐに行動を開始し、政府・外務省に対して累次の要望・要請を行ってきました。3月31日にはミャンマー連邦議会代表委員会(CRPH)とオンライン会議を行い、7項目からなる共同声明を採択。それを議連が外務省に要望書として提出しました。しかし、国軍による市民への暴力や殺戮行為が一段と悪化をしていたその時点に至ってもなお、日本政府の具体的なアクションが見えず、議連の所属議員や在日ミャンマー人コミュニティの皆さんからも失望の声が上がり始めていました。
 そのような中で、中川正春会長を先頭に議連内で「国会で決議をして強いメッセージを出そう」という声が出始めたのです。それ以降、水面下での協議が始まり、与野党間での調整も踏まえて、最終的には6月上旬に衆参両院での採択に至りました。決議には「国軍による現体制の正当性はまったく認められない」「(私たちは)声を上げ、行動しているミャンマー国民と共にある」「あらゆる外交資源を駆使して決議事項の実現に全力を尽くすことを政府に要請する」という文言が盛り込まれています。これは日本国民が今後もミャンマー国民と共にあるという強い意志表示であり、国際社会や国軍に対して国会の断固たる決意を表明できたことは大変有意義だったと思います。

永杉 ミャンマー国内は今もなお混乱を極めています。日本として即座に取り組まなければならないことは「緊急人道支援」と「難民の受け入れ」の2点と考えます。それぞれのご見解をお聞かせください。

石橋 6月末までに既に23万人以上とも言われる国内避難民(IDPs)が発生している状況において、緊急人道支援の提供は喫緊の課題です。日本政府は5月に国連世界食糧計画(WFP)を通じてヤンゴン周辺に400万ドルの緊急無償資金協力を行い、7月にも国連の3機関を通じて南東部の人々を対象とした580万ドルの支援を決定しました。この動き自体は評価できます。しかし、現時点ではいかに国連組織といえどもまったく国軍の関与なしに活動するのは難しい状況にあります。そのため、特に不服従運動(CDM)に参加して避難を余儀なくされている方々や、少数民族支配地域の国境沿いジャングル等に避難している皆さんに支援物資を届けるためには、別のチャンネルを使った直接的な支援の提供を模索しなければなりません。ミャンマー国内で市民側に立って活動するNGO等がまったく動けない中で、唯一可能なのはタイやインド側から国境を超えて直接支援物資を届ける方法です。その実現のためには、これまで活動実績のある少数民族系NGO組織や、ミャンマー国民が支持をする国民統一政府(NUG)と連携して支援を行うなど、平時のODAの枠組みに囚われず、緊急事態の支援だからこその特別措置が必要になります。これについては、外務省への要請と協議を重ねていますが、民間の組織とも連携して、一刻も早く支援を実現したいと考えています。
 難民等の保護については、「帰国できない在日ミャンマー人に対する在留資格の緊急避難措置」「何らかの方法で日本に逃れてきた方、または日本政府に保護/庇護を求める意思表示をしてきた方々の適切な保護や難民認定」「一旦、タイなど隣国へ逃れた方の第三国定住」の3つが柱となります。議連でも2 月から政府に対応を要請してきましたが、在留資格の緊急避難措置については5月末にスキームが公表されて、8月20日までに約2000件の変更申請が認められています。
 また、難民申請については、サッカーのピエリアンアウン選手の申請を入管庁が迅速に審査してくれて、8月20日に無事に認定が下りましたが、その他の申請者の迅速な認定が課題となっています。在留資格や難民申請の問題については、今後も政府・外務省・入管庁の適切な対応をフォローしていきます。

NUGの正式承認へ、欧米で
進む議論と日本政府への期待

永杉 国軍への圧力という意味でも日本政府がNUGを正式な政府として認めることも望まれます。これについてはいかがでしょうか。

石橋 私たち議連としては、4月の段階からNUG/CRPHをミャンマー国民が選んだ正式な政府/議会として認めるべきだと、日本政府に対して訴えを続けてきました。日本政府がすぐにNUGを正式な政府として公式承認をするのは簡単な話ではないことは理解できますが、すぐに正式な政府としての承認に至らなくても、まずはミャンマー国民を代表する立場にある体制組織として、外交上の対話相手として公に認め、さまざまな課題についての協議を表舞台で行うことは可能なはずです。


 実際に諸外国ではそのような努力が進められています。例えばアメリカでは、有識者がバイデン政権に対してNUGを正式承認するべきとの提言を行い、8月上旬には国務副長官がNUGのジンマーアウン外務大臣と協議し、そのことを国際社会にアピールしています。また議会側でも、イギリスではNUGをゆくゆくはミャンマーで政府を担う立場「Government in waiting」として認めてはどうかという案が外交委員会で示されていますし、フランスでは上院の外交委員会でNUGの承認に向けた決議が行われていると理解しています。日本政府も水面下ではこれまでにもNUGとの接触を行っているはずですので、「ミャンマー国民と共にある」という国会決議を最大限に尊重・活⽤して、もうそろそろNUGとの外交関係の樹立に向けて表に見える積極的な行動をしてほしいと思います。

永杉 国軍は自軍のために新型コロナウイルス患者の治療に使⽤する酸素を奪うなど非人道的な暴挙に及んでいると伝えられます。その中で先日の「国軍を認めない」という強い決議は意味のあることだと考えます。今後議論が進み、日本がNUGを正式に承認し、民主化への道筋がつけられることを切に願っております。本日はお忙しい中ありがとうございました。

永杉 豊 [Nagasugi Yutaka]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
MJIホールディングス代表取締役

学生時代に起業。その後ロサンゼルス、上海、ヤンゴンに移住し現地法人を設立。2013年からミャンマー在住。月刊日本語情報誌「MYANMAR JAPON(MJビジネス)」、英語・緬語情報誌「MJ+PLUS」を発行、ニュースサイト「MYANMAR JAPONオンライン」を運営、3メディアの統括編集長も務める。(一社)日本ミャンマー友好協会副会長、(公社)日本ニュービジネス協議会連合会特別委員、UMFCCI(ミャンマー商工会議所連盟)、ヤンゴンロータリークラブ所属。