【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

日本・ミャンマー友好議員連盟会長 逢沢一郎衆議院議員

日本在住のミャンマー人への圧力も懸念される現状
政府はあらゆる関係者との丁寧な対話を続けるべき

今回のテーマ 長年にわたるミャンマーとのつながりを有する国会議員

衆議院議員 逢沢一郎 [Mr.Aisawa Ichiro]

日本・ミャンマー友好議員連盟会長
1954年生まれ、岡山県出身。慶應義塾大学工学部卒業後、松下政経塾に第一期生として入塾した。1986年、衆議院議員に初当選し、現在当選11回。2003年に外務副大臣に就任。自民党の国会対策委員長、衆議院の議院運営委員長や予算委員長など要職を歴任。また、日本・ミャンマー友好議員連盟会長のほか、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)国会議員連盟会長も務めるなど、国際的な活動を続けている。


国軍はもはや四面楚歌
日本在住者に帰国命令も

永杉 コロナ渦により中断しているTOP対談ですが、クーデターを受け、短期集中連載という形で有識者にお話をうかがっていきます。今回は、日本・ミャンマー友好議員連盟会長を務められている逢沢一郎衆議院議員です。さて、日本でも報道やSNSなどでミャンマーの惨状が伝えられていますが、どのようにお考えですか。

逢沢 許しがたいことです。国軍が何を言おうと、やっていることは殺戮に違いありません。自国民に向かって銃口を向け、子どもも老人も妊婦も見境なく殺しています。
 国民や国際社会からの反発は極めて激しいものです。国軍はこのような状態に未来などないと早く認識すべきでしょう。中露が支えてくれるという期待があるのかもしれませんが、その2か国といえども、これだけの厳しい批判をすべて無視して本格的なミャンマー支援に乗り出すことなどできません。このままいけば経済制裁が進み、国軍は所属する40万の兵士やその家族の生活を維持することさえ難しくなるのは目に見えています。

永杉 日本にも留学や就労で数多くのミャンマー人が滞在しています。彼らへの影響も心配です。

逢沢 クーデター以降、日本に住むミャンマー人に対しても、国軍から圧力がかかっています。家族が不服従運動に関わっているミャンマー人は、パスポートの更新が許可されず、帰国命令が下されたそうです。生命に危険が及ぶ可能性が高いため、言われたまま帰国するわけにはいかず、追い詰められている状況。こうした方が人道的配慮の観点から日本にいられるよう、外務省とも連携して対応しています。私は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)国会議員連盟会長でもありますから、この種の問題に対しては特に注視しております。

国連安保理が力を果たせない今
ASEANに懸かる期待は大きい

永杉 クーデターから3か月以上が経過し、ヤンゴンでは表面的なデモは減少傾向にあるようです。一方、地方では戦闘が続くなど混乱が続いています。今後、この問題が収束に向かうためには、どのような道筋があるとお考えでしょうか。

逢沢 4月24日にジャカルタで開催されたASEANリーダーズミーティングにおいて、ミャンマー情勢についての議論が行われたことは前進と言えます。会議後には、暴力の即時停止や特使の受け入れなどからなる「5つのコンセンサス」が発表されました。共同宣言という形ではなかったものの、ミン・アウン・フライン国軍最高司令官も出席した会議ですから大きな意味はあったと言えるでしょう。また、ASEANは内政不干渉が原則の組織だったのですが、今回は異例とも言える形で参加者から懸念が表明されました。こうした発言には大変勇気づけられます。
 中露の意向により、国連安保理は実効性のある対応ができなくなっている今、対ミャンマー外交の主役はASEANです。もちろん、ASEAN内には軍政の国家や専制色の強い国家もあり、一枚岩ではありません。しかし、今こそ新たなASEANの姿を世界に示してほしいと思います。

日本が果たすべき役割
対話の道を閉ざしてはならない

永杉 日本は国際社会の一員として、国連やASEANなどへのサポートや働きかけを行うことは大切だと思います。しかし、一方で、これほど歴史的な関係が深いミャンマーという国に対して、日本単独でも問題解決に向けた積極的な動きが必要だと考えます。
 きっと日本政府も水面下で動いているのだと思いますが、実際どのような動きがあるのでしょうか。

逢沢 国会議員といえど、水面下での動きは把握できません。私も外務副大臣時代に経験がありますが、現在交渉が続いている外交案件については、たとえ同じ与党議員であっても決して話されることはないのです。
 しかし、一般に公開される外務大臣談話を見るだけでも、日本が各方面との対話路線を貫こうとしていることがわかります。たとえば、4月27日付けで発表されたペーパーに気になる文言がありました。談話の主旨は先にお話をした「5つのコンセンサス」についてなのですが、最後に【日本政府は、この一連の過程において、笹川陽平・ミャンマー国民和解担当日本政府代表と緊密に連携してきており、今後もそれを継続していきます。】という一文がありました。笹川さんは、古くからミャンマー国内で学校建築やハンセン病対策などの活動を行ってきたほか、民主化プロセスにも大きく関わってきた方。その過程で軍、NLDだけではなく、少数民族武装勢力とも関係を構築しています。そんな笹川さんの名前を、このタイミングで外務大臣が出すということは、日本は今後も各勢力と丁寧な対話を行うのだという外務省のメッセージと受け取れます。この路線を私は評価したいと思います。
 もちろん、これに異を唱える人々もいるでしょう。「日本は国軍とのパイプを持っているなどと言われているが、何も成果が上がらないではないか。そんなパイプなど遮断し、新たに樹立した国民統一政府(NUG)を正式な政府として大々的に認めてしまえばいいではないか」と人から意見されることがあります。しかし、私は外交とはそういうものではないと思っています。各方面と丁寧に話をする機会を放棄すべきではありません。
 日本国民のみなさんには、常にこの問題に対して目を向け続けてほしいと思います。世界から厳しい視線が向けられることが大きな変革につながるのです。

永杉 一時期に比べると日本での報道の数も減少しつつあります。そんな中、ミャンマーで何が起こっているかを一人でも多くの人が気にし続けることは本当に大切なことです。我々も多くの人に問題意識を持ってもらうための一助となれればと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。

永杉 豊 [Nagasugi Yutaka]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
MJIホールディングス代表取締役

学生時代に起業。その後米国永住権取得。ロサンゼルス、上海、ヤンゴンに移住し現地法人を設立。2013年からミャンマー在住。月刊日本語情報誌「MYANMAR JAPON」、英語・緬語情報誌「MJ + PLUS」を発行、ニュースサイト「MYANMAR JAPONオンライン」を運営、3メディアの統括編集長も務める。日本ブランドの展示・販売プロジェクト「The JAPAN BRAND」、TVショッピング「TVSHOP」を企画運営。(一社)日本ミャンマー友好協会副会長、(公社)日本ニュービジネス協議会連合会特別委員、UMFCCI(ミャンマー商工会議所連盟)、ヤンゴンロータリークラブ所属。東京ニュービジネス協議会2017年国際アントレプレナー賞特別賞受賞。