【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2019年4月号>Sithar Coffee CEO トゥー・ゾウ氏

今回のテーマ  ミャンマー産コーヒーを世界に紹介する企業

トゥー・ゾウ氏 [U Thu Zaw]

Sithar Coffee CEO
オックスフォード大学で交渉術、ブラッドリー大学で経営学を学ぶ。長年、アメリカや中国に居住し、現在はSithar Coffee Co., Ltd.のCEOを務めるほか香港のノーブル・グループ、日本の住友商事などともビジネスを展開。また、ミャンマーのSerge Pun AssociatesでCEO補佐を務めるほか、ヤンゴンロータリークラブ国際奉仕委員長、ミャンマーイギリス商工会議所役員など多くの要職を兼任する。

世界から注目を集めるミャンマーコーヒー
地方の農民を豊かにするチャンスを秘める

輸出向けは堅調に推移
国内市場も成長の兆しが

永杉 昨年の夏にミャンマー北部のピンウールウィンへ行った際、地元のカフェで大変美味しいコーヒーをいただきました。今回はその際に飲んだコーヒーブランドSithar CoffeeのCEO、トゥー・ゾウさんにお話をうかがいます。まずはミャンマーコーヒーの歴史と現状を教えていただけますでしょうか。

トゥー 1880年頃にキリスト教の宣教師によって持ち込まれたのが始まりだと言われています。当初はベイやダウェイで栽培され、その後北部に拡大。現在では各地域に農園があり、当社でもピンウールウィンのほか、ユアガン、タチレク、ミッチーナ、タウンジー、ラーショーに農園を有しています。栽培される品種もブラジル、コロンビア、ラオスの豆など多様で、研究開発にも積極的に取り組み、今ではミャンマー産の豆は世界的な評価も高く、順調な成長が続いていると言えるでしょう。
 国内消費に目を向けると、ミャンマー人に一番売れているのは3 in 1コーヒー(砂糖とミルクが入ったインスタントコーヒー)です。インスタントにも質のよいものはありますが、安価な製品のなかにはココナッツの皮などで増量している粗悪なものも存在します。ミャンマーでは価格の安いものが売れる傾向が強いため、低品質なコーヒーが広まってしまうのは残念なことです。一方、近年ではスペシャリティコーヒーを提供する店も人気を集めており、ミャンマーのコーヒー文化はこれから本格的に成長していくのではないかと考えています。

生産から販売まで網羅
農家への支援も重視したい

永杉 Sithar Coffee設立の経緯と、現在の状況を教えてください。

トゥー 私の母であるDaw Tin Tin WinがFuji Coffeeを設立したのが、ビジネスの始まりです。コーヒーショップからスタートし、自家焙煎、コーヒー機器の取り扱いなどに事業を拡大し、1996年に法人化しました。現在、ヤンゴン、マンダレー、タウンジー、ガパリにオフィスとショールームを構えているほか、自社農園を有し、栽培、焙煎、販売まで一貫して行える体制を整えています。これらは自社で完結するものもあれば、国内外の企業と提携をして行っているものもあります。
 さらに当社が重視しているのが、農家に対するサポート。近年、海外からの需要が増えていますが、地方の農家にはその波に乗って事業を開始する資金もノウハウもありません。それを最大限にサポートし、地方の農家を豊かにすることがミッションだと考えています。

永杉 輸出向けが堅調のようですが、主な輸出国はどこでしょうか。

トゥー イギリス、デンマーク、ロシア、韓国、マレーシアなどがメインです。タイとオーストラリアにも小規模ですが輸出しています。多くの国に輸出するのはよいことですが、コーヒーは国ごとに好みが分かれやすいのが難しいところ。品種、地理、気候、新鮮さ、焙煎方法などにこだわっても、国によって評価が分かれることがあるのです。そのため我々はビジネスプランを明確にし、どのマーケットに向けたコーヒーを作るのかを常に考えなければいけません。現在当社では、アジアの人々に受け入れられやすい品種の栽培に力を入れています。

成熟した日本のコーヒー市場
高品質でアピールしたい

永杉 海外企業との提携も多いそうですが、日系企業との協業はありますか。

トゥー はい。ブラジルやイタリア企業のほか、日系企業との協業しています。HARIOのコーヒー機器を輸入しているほか、新たなビジネスとして抹茶を輸入販売する事業も行っています。

永杉 昨年9月に日本で開催された『SCAJWorld Specialty Coffee Conference andExhibition 2018』に参加されたと聞きました。日本のマーケットについてはどのような印象をお持ちでしょうか。

トゥー 日本のコーヒー市場は成熟し、安定していると見受けられます。当社は日本の貿易関連企業と提携をしておりますが、日本のコーヒー業界にはすでに多くの企業が存在し、大変厳しい競争にさらされています。日本の商習慣として信頼関係が重視されるので、新しく参入するのは簡単なことではありません。
 一方、我々にとってはよい兆しもあります。日本の業界団体が主導し、各国のコーヒーをフェアトレードの精神で買い付ける動きが活発化しており、ミャンマーもその対象として位置づけられています。このようにミャンマー産のコーヒーに目を向けてもらえるきっかけが増えていくのは喜ばしいことです。
 我々としては、世界から注目されるような高品質なコーヒーを作ることに注力しなければいけません。現在、人気の高いエチオピアの品種を標高1800mほどの高地で栽培する試みが始まっています。今後も品質を上げる努力をし、日本などで開かれる品評会で世界の皆さんに紹介したいと考えております。

永杉 最後になりますが、日本とミャンマーは長年にわたり深い関係が続いています。両国の関係が今後どのようになるとお考えでしょうか。

トゥー ヨーロッパなどの国々はミャンマーに対して投資をした時期はあったものの、多くの国や企業が撤退してしまいました。しかし、日本はそんなことはありません。長期的にミャンマーのことを考えて関係を構築してくれています。日本人は技術が高く、ビジネスも下調べをし、しっかりと慎重に進める国民性。こうした姿勢から多くのことを学ぶためにも、両国が今後も友好的な関係を維持していけるといいですね。

永杉 私も両国の関係がより深まり、ピンウールウィンで飲んだあの美味しいコーヒーを日本でも気軽に味わえるような未来が来ることを望んでおります。本日はお忙しい中ありがとうございました。

永杉 豊[NAGASUGI YUTAKA]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
ミャンマー・日本・バンコクで発行するビジネス情報誌「MJ Business」、英語・緬語ビジネス情報誌「MJ + plus」の発行人。ミャンマーの政財界や日本政府要人に豊富な人脈を持ち、ビジネス支援や投資アドバイスも務める。日本ブランドの展示・販売プロジェクト「The JAPAN BRAND」主宰者。一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員、ヤンゴン和僑会会長、UMFCCI(ミャンマー商工会議所連盟)、ヤンゴンロータリークラブ所属。