【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2018年4月号>社会福祉救済復興大臣 兼 ラカイン州勧告実施委員会委員長 ウィン・ミャ・エー氏

今回のテーマ ラカイン州の復興と安定を担う委員会

ウィン・ミャ・エー氏 [Dr.Win Myat Aye]

社会福祉救済復興大臣
ラカイン州勧告実施委員会委員長

1980年にヤンゴン大学医学部で医学学士を取得。2002年にAustralian College of Tropical Medicine のメンバーとして認定されたほか、2016年にはRoyal College of Physician fromGlasgow から王立内科学会フェロー(FRCP)の称号を受けるなど、国外での活動も活発。ミャンマーでは33年間、小児科医や医科大学教授などを務め、チャリティー活動にも精力的な人物として知られる。現在は社会福祉救済復興大臣、ラカイン州勧告実施委員会委員長、ラカイン州人道支援・再定住・復興発展計画の副会長などを兼務している。

国内外、官民一丸でラカイン州問題に対処
日本からの多大な支援に感謝したい

多くの組織が協力してラカイン州問題解決にあたる

永杉 本日はラカイン州の復興にご尽力されている、社会福祉救済復興大臣のウィン・ミャ・エーさんにお話を伺います。まず、ご自身の役職についてご説明いただけますでしょうか。

ウィン 社会福祉救済復興省の大臣と兼任でラカイン州勧告実施委員会の委員長を務めております。さらにラカイン州人道支援・再定住・復興発展計画(UEHRD)で副会長も兼務しています。

永杉 ラカイン州勧告実施委員会とUEHRDという二つの組織の名前が出てきましたが、違いを教えていただけますでしょうか。

ウィン 勧告実施委員会はラカイン州問題解決に向け、調査委員会や諮問委員会がまとめた報告書などを効果的に実行するため、現政権発足2か月後の2016年5月末に組織されました。
一方、UEHRDは2017年後半に組織されたもので、「バングラデシュへ避難したイスラム教徒の再受け入れ」「避難民の定住支援」「ラカイン州の復興」に主眼が置かれています。

永杉 どのような体制でラカイン州問題にあたっているのでしょうか。

ウィン 問題解決には国内外の多くの組織が関わっています。それらの組織がまとめた報告書などから問題解決と将来の発展に向けた対策案を作成、実施して問題解決にあたっています。
たとえば、元国連事務総長でノーベル平和賞を受賞されたコフィー・アナン氏を中心とする諮問委員会もその一つです。同会は9名で組織されており、問題に関する報告書をまとめています。
また、2016年10月にラカイン州マウンドー地区で発生した地元警察署への襲撃事件を受け、ミン・スエ副大統領以下13名で組織されたマウンドー地区の調査委員会が同年12月に発足しています。 これら組織からの報告書を元に、勧告実施委員会やUEHRDが施策を実行し、民族衝突の防止や当地の安定化、復興を推し進めています。

地域の不安を解消しつつ避難民の再入国を進める

永杉 将来的に民族間の衝突がなくなるためには、どうすればよいとお考えですか。

ウィン イスラム教徒、ラカイン族双方の不安や恐怖心を取り除くことが大切です。イスラム教徒側は、軍事政権時代に差別を受けたという意識が残っています。しかし、現政権は公平であり、コフィー・アナン氏が率いる諮問委員会の報告書にも彼らの権利を守ることの大切さが説かれていて、我々はそれを重視しています。避難をしているイスラム教徒に、我々のこうした姿勢を理解してもらう必要があります。
一方、ラカイン族側にも不安や恐怖があることを忘れてはいけません。以前衝突が発生した村の人口はイスラム教徒が97%、ラカイン族が3% という割合です。ラカイン族のなかには、イスラム教徒の多くが帰還することで、自分たちの身に危険が迫るのではないかという思いがあります。我々としては、こうした不安や恐怖にも積極的に対処して解消する必要があります。

永杉 先程、UEHRDは避難民の再受け入れも目的の一つとおっしゃいました。UEHRDはそのほかに、どのような役割を担っているのでしょうか。

ウィン UEHRDは国内外、官民一体の組織なので、政府、民間、国連組織、NGO などが関わっています。避難民の再受け入れに加え、「建設・インフラ整備」「農業・畜産」「経済特区」「雇用創出・職業訓練校開校準備」「保健」「小規模融資・中小企業支援」「資金調達・管理」「観光業発展」「広報」という9分野でラカイン州の復興を進めています。

永杉 バングラデシュへ避難しているイスラム教徒が再入国するための道筋はどのようになっているのでしょうか。

ウィン ミャンマーへ再入国するためには、身分証明書(NVC)を取得しなければなりません。その後、国籍取得に向けた調査プロセスに入ります。調査結果により、「国籍取得」「被選挙権がないなどの制限はあるが、それ以外は国籍取得者と同等の権利取得」「居住権取得」という3つに分けられます。
一方、再入国を予定している方々の中に、この調査を拒否して手続きのみで国籍を与えるように求める人がいますが、調査プロセスを経ることが大切ですので、毅然とした対応をしたいと思います。しっかりとした調査をすれば、避難民の人々は適切な教育や保健医療の権利を得ることができるのです。 なお、再入国した人は、移動の自由もあります。ルールに従って事前申請を行えば、ラカイン州から出て地方へ行くことも可能です。

永杉 ラカイン州復興に向け、UEHRDが抱える問題はありますか。

ウィン ミャンマーと親しい国、タイや中国、そして日本などから、ラカイン州に対して金銭的な支援をいただいています。しかし、直接寄付することが難しいため、NGO などへ寄付金を預託し、使途計画を立て、ラカイン州復興に役立てるというケースが多くなっています。現在、NGO が定めた支援金の使途について、ラカイン族などから不平等ではないかといった声が上がるという問題が生じています。
もちろん、支援金を頂戴することは大切なのですが、建設資材など、モノによる支援にも分散していただけると、こうした問題も発生せずに復興が進んでいくと考えています。

さまざまな問題にも関わらず日本はミャンマーを支援

永杉 最後に日本とミャンマーの関係についてお聞きします。長年、深い縁を持つ両国ですが、今後どのような関係になっていくとお考えでしょうか。

ウィン 私は以前、小児科医として医大の学長を務めていたのですが、当時から日本はミャンマーの保健医療に関して多大な支援をしてくれていました。
ラカイン州問題が発生してからも、日本は我々に寄り添ってくれています。つい先日も河野太郎外務大臣が訪緬されましたし、樋口建史在ミャンマー日本大使(* 2018年2月現在)にも多くのサポートをしていただいています。
コフィー・アナン委員長がまとめた報告書には、ラカイン州の警察官育成に関する文書があるのですが、これを実施するため、ミャンマーの警察官を日本へ派遣する取り組みも行われています。
いかなるときも、日本はミャンマーに支援の姿勢を示してくれました。困難な状況に置かれたときに寄り添ってくれる人こそ真の友人です。両国はこれからも一層よい関係を築いていけるのは間違いないでしょう。

永杉 さまざまな問題はありますが、ミャンマーに寄り添っていきたいというのは日本人の基本的な姿勢です。今後も両国が手を取り合いながら発展していけるよう、私も微力ながらお役に立ちたいと思います。本日は公務ご多忙の折、ありがとうございました。

永杉 豊[NAGASUGI YUTAKA]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
ビジネス情報誌「MYANMAR JAPON BUSINESS」、「MJビジネスバンコク版」、ヤンゴン生活情報誌「ミャンジャポ!」など4誌の発行人。英語・緬語ビジネス情報誌「MYANMAR JAPON+plus」はミャンマー国際航空など3社の機内誌としても有名。日本ブランドの展示・販売プロジェクト「The JAPAN BRAND」ではTV番組を持つ。ミャンマーの政財界や日本政府要人に豊富な人脈を持ち、ビジネス支援や投資アドバイスも務める。 一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員、WAOJE(旧和僑会)ヤンゴン代表。