【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2017年1月号>STAR MOE YAN GROUP マネージングディレクター ティンティン・ミン氏

今回のテーマBurmese Dream ミャンマードリームを体現した女性経営者

ティンティン・ミン 氏[Tin Tin Myint]

STAR MOE YAN GROUP マネージングディレクター
1969年生まれ。1992年ヤンゴン大学物理学部を卒業後、日用品やアパレルの貿易をはじめる。1996年から不動産業界に携わると、1998年に宝くじ業界に参入。競争の激しい中、「Moe Yan Shwe Lamin」と「Myat Su Gaday」のブランド名で宝くじを販売する。ほかにも観光、ホテル、化粧品、金融、建設なども手がける。2013年、各事業会社を統括するためにSTAR MOE YAN GROUPを設立。

ミャンマー人にとって、日本製品は10年ほど前から親しみがあります

経済規模拡大に必要なふたつの前提条件

永杉 本日はお忙しいところお時間いただきありがとうございます。まず、ミャンマーのLOTTERY(宝くじ)業界で有名な「STAR MOE YAN GROUP」の企業内容とティンティンさんの役割について教えてください。

ティンティン 私が創業したSTAR MOE YAN は、宝くじと不動産事業から始まりましたが、現在では貿易、観光、ホテル、人材紹介、日用品、マイクロファイナンス、IT、建設など12事業を展開するグループ企業となっています。各セグメントの事業会社の運営はそれぞれの代表者に任せ、私は社長としてグループ全体の意思決定を行っています。たとえば不動産投資であれば長期投資計画と短期投資計画を練りますし、海外投資に関しては、国際経済法や市場の需要を予測しながら拡大するための戦略を策定しています。

永杉 広範な事業を手掛けておられますが、ミャンマーのビジネス環境はいかがでしょう。海外からの投資が増えて経済が発展する一方で、貿易赤字やインフレ率の高止まりなど懸念材料もあります。ミャンマー経済の現状をどう捉えておられますか。

ティンティン アジア諸国の中でも、ミャンマーは全世界から注目されている市場のひとつです。国家計画経済開発省・投資企業管理局(DICA)の発表によると、外国企業による投資額は、1988年から2015年までの累計で 580億2000万 ドル。2012年から民主化が急激に進み、外交政策も活発になったことから、2014年の1年間だけで投資額は80億ドルに達しました。2015年は総選挙の影響で投資を見送る企業が多かったため、30億9000万 ドルまで減少しましたが、英国統治からミャンマーが独立して半世紀。ミャンマーはここ5年で大きな変化を遂げました。2016年は新政権が発足して多くの外国企業が興味を持ち、実際に進出する企業も増えています。
経済規模が拡大するためには、主にふたつの前提条件が必要です。規制緩和を進めることと、発展途上国であることです。新政権は外資の流入に際し、貿易、財政、不動産などにおいて、柔軟に経済政策を進める必要があります。規制を厳しくしすぎると違法な貿易が行われたり、経済の混乱を招く可能性があるからです。
また、発展途上国であることは、伸び代があるということでもあります。外国企業が投資すると雇用機会が拡大し、高所得者層だけではなく中・低所得者層の生活水準も改善されます。まさにトリクルダウン理論(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるという考え)を実現できるのです。

金利高が企業の成長を阻む懸念材料

永杉 ミャンマーの市場がまだまだ有望だということはわかりましたが、外資系企業からは、電力不足をはじめとするインフラの脆弱さや法整備を求める声も挙がっています。

ティンティン 前政権と比較すれば政治的にも経済的にも進歩していますが、電力不足をはじめとするインフラ問題、法整備についてはまだまだ対策が必要です。新政権が優先的に取り組んでくれれば、これらは早期に解決できると思います。

永杉 外部環境についてはいかがでしょうか。東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の貿易自由化や市場統合などを通じて成長加速を目指す「ASEAN 経済共同体(AEC)」が2015年に発足しましたが、ビジネスへの影響はありますか。

ティンティン ミャンマー、ラオス、カンボジアについてはまだ関税が残っているため、完全に経済が統合されたとはいえませんが、2018年までには全品目の関税がゼロになる見込みです。ASEANの経済統合により、ミャンマーへの直接投資と雇用機会が拡大するとともに、アジア市場にヒト、モノ、サービスを輸出できる機会が多くなるでしょう。大きなメリットはASEAN域内の外資企業と提携できるようになることですが、一方で競争力の強化が求められます。外資企業と競争するためには、規模を拡大していかなければなりません。ところが融資を受けるにあたって、銀行の金利が高いのが大きな問題です。

永杉 インフレが進めば金利が上がる。ある意味、経済成長の副作用ですね。ほかにも懸念材料はありますか。

ティンティン ミャンマー中央銀行は2012年4月から管理フロート制を導入し、決められた変動幅での自由な為替取引が可能になりました。結果、2015年時点のチャットの対ドルレートは、管理フロート制導入前と比べ約3割も下落しています。輸出価格が上昇することで物価の上昇が避けられず、あまりいい状況であるとはいえません。国民は、給与が上がってもその実感を得られないでしょう。そうしたリスクを回避するために当グループでは、外貨収入が期待できる輸出、ホテル、観光に力を入れています。

日系企業との提携を積極的に模索

永杉 今後の展開についてはいかがでしょうか。

ティンティン 当グループは「Transparency Business( 透明性あるビジネス)」と「Responsible Business(責任あるビジネス)」を経営理念としています。数年後にはホールディングス化して上場するべく、準備を進めています。
具体的な事業に関しては、日系企業と提携し、安価で品質の良い日用品や電化製品を製造してミャンマーで展開するつもりです。そのために、世界のトレンドを捉えた研究開発を行っています。例えば、日用雑貨の「OMOTO」やIT 分野においてはすでに日系企業と提携しており、ゲーム開発のキャメロンと「ZeeKwat」というポータルサイトを運営しています。これからもミャンマー国民に役立つ日本の近代技術を導入するつもりです。

永杉 多くの日本企業がミャンマーに関心を持っているので、ぜひ進めていただきたいですね。ところで、日本企業がほかの外国企業と比べて優れている点は、どのような部分にあるとお考えですか。

ティンティン 日系企業の優れている点は、ティラワに進出している企業に代表されるような製造業もしくは通信業にあると思います。
ミャンマー人にとって、日本製品には10年ほど前から親しみがあります。たとえばトヨタ、日産、マツダなどの自動車、日立、キヤノン、富士通などの電気製品、電子製品、日用品といったようにです。品質が高い日本の製品は、ミャンマーでも受け入れられています。いまは、日本企業がミャンマーに投資する良い時期だと思います。

永杉 経済面だけでなく、ミャンマーと日本の関係は歴史的にもとても縁が深いものがあります。ティンティンさんは、今後の日本とミャンマーの関係についてどうお考えですか。

ティンティン アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が11月1日から5日まで公式訪日されました。報道にある通り、今後5年間で8000億円規模の支援があればミャンマーと日本の関係はさらに緊密になり、政治も経済もよい方向へと進んでいくことでしょう。日本企業の進出も加速し、我々のような現地企業が日系企業と提携できるチャンスも多くなります。当グループとしては、今後も日系企業と連携を深めていけたらと思います。

永杉 STAR MOE YANと日本企業が組むことで、両社がウィンウィンの関係になることを願っています。本日は、お忙しい中お時間をいただきありがとうございました。

永杉 豊[NAGASUGI YUTAKA]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
MYANMAR JAPON および英語・緬語情報誌MYANMAR JAPON +plus 発行人。日緬ビジネスに精通する経済ジャーナリストとして、ミャンマー政府の主要閣僚や来緬した日本の政府要人などと誌面で対談している。独自取材による多彩な情報を多視点で俯瞰、ミャンマーのビジネス支援や投資アドバイスも務める。ヤンゴン和僑会代表、一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員。