井本勝幸応援隊による地方現地レポート(1)カレン民族同盟

学校建設などさらなる援助が不可欠
KNU内部は2派に分かれ議論が膠着

 長年に渡って、ミャンマーの少数民族に支援を行ってきた「井本勝幸応援隊」。“ビルマのゼロファイター”こと井本勝幸氏らが中心となって活動しているネットワークであり、2月1日のクーデター以降、さらなる貧困にあえぐ少数民族に食料支援を含めたさまざまなサポートをしてきた。
 そんな井本勝幸応援隊からミャンマージャポンに届いたレポートが、カイン州のカレン民族同盟(KNU)とカヤー州のカレンニー民族進歩党(KNPP=Karenni National Progressive Party)の悲惨な状況だった。本日、明日と2日連続でそれぞれの現状をお伝えする。


 カイン州は空爆を含むミャンマー国軍の度重なる攻撃によって、避難民がデブノ、イトゥタ、メーウェの3地域で約3万人に達した。うち7,000人がタイ国境のサルウィン川沿いに滞在している。

 井本勝幸応援隊では、サルウィン川のイトゥタ及びメヌタ(イトゥタ北方)の港に倉庫を設置し、そこから各地へ救援物資を届けている。サルウィン川近くにラタ新避難民キャンプ(約300人収容)、中間にあるミャンマー国軍の基地を挟み、アタ新避難民キャンプが設営された。国軍基地からの出撃回数が頻繁のため、避難民は攻撃を受ける度に川を渡り、タイ側に一時的に逃げているという。

 避難民の長期化にともない、緊急援助のほか学校や病院建設の声が高まっている。就学児童総数は上記3地域で3万人。人数が多いのは、イトゥタ(800人)とデブノ(700人)であり、新仮校舎は空爆被害を避けるために山中に建設される予定とのこと。イトゥタ、デブノ共に教室は2クラスで、教師や生徒用の男女別ドミトリーがあれば理想的とされ、予算は1棟当たり5万バーツ。そして、学校、病院共に給食費も必要となる。
 タイ側(メーサリアン市内)では、カレン難民委員会(KRC = Karen Refugee Committee)の大きな倉庫を1年契約し、各NGOと物資の搬入搬出のために共同で使っていく。さらに運搬作業のためのスタッフ雇用も欠かせないだろう。

 緊急人道支援については、KTG(Karen Thai Group)が援助ではなく、ミャンマー国軍への忖度のために「貿易という形ならOK」と了承してくれたため、クロスボーダーで行うことが決定した。タイ政府も正式に合意している。

 KNU指導部の考えは2つに割れている。第2、4、6旅団が賛同するのが全土停戦合意文書(NCA)に沿って和解を進めることであり、一方第1、3、5、7旅団はクーデターによってすでにNCAは無効化しているため解決策にはならないと主張している。ただし、今回のクーデターを起こした国軍を認めないという点では全旅団が一致。現状、2派に分かれて議論が膠着し、近くKNUの総選挙が控えているため、国軍との激しい戦闘は今のところは収まっているが、国軍側は兵士を増員し、軍用機による威嚇偵察、射撃はほぼ毎日行われている。そのため農民が「田植えができない」と嘆いている。

 上記2つのグループは、地域住民の生活および生存を第一優先としており、また一般住民はほとんどが軍評議会を認めていないため、KNUが国軍と和平交渉する雰囲気にはなっていない。

 一方、国軍はKNUに対して避難しているCDM参加者を引き渡せと強く言ってきているが、KNUは総意としてCRPH/NUG側を支援すると表明しているため、避難民を今後も保護する姿勢。KNUは軍評議会を認められないミャンマー国民側に立ち続けるという。

 KNU幹部の多くは、クーデターを起こした以上、国軍が態度を変えることはないとみている。夜間空爆やドローン攻撃など戦闘方法が複雑・高度化し、非常に手を焼いている。やはり国軍が態度を変えるのは国際社会のより強力な圧力しかないのではないか?と考えているようだ。

井本 勝幸 [Imoto Katsuyuki]

Profile
1964年生まれ、福岡市出身。東京農業大学、立正大学卒業。90年から海外で難民支援を行い、帰国後仏門に入り、2000年に「四方僧伽」を発足。11年より、反政府ビルマ少数民族地域と交流を持ち、現在ではミャンマーの内戦停戦に貢献。旧日本軍兵士の遺骨調査活動を行い、多くの人権賞、外務大臣表彰を受けている。