企業はどうコロナと向き合うべきか
Myanmar New Normal


新型コロナウイルスの感染者数は少なく、すでに落ち着きをみせはじめているミャンマー。しかし、今もなお日本に退避しながらリモートワークを続けている駐在員は多い。Withコロナ、Afterコロナが叫ばれる現在で、ミャンマーには一体どんな変化が訪れるのか? 日系企業の進出に影響はあるのだろうか?
JETROヤンゴンの田中所長に解説してもらった。

(※本記事は2020年8月6日時点での内容です。情報は変わることがあります。)


JETRO Yangon
Managing Director
田中 一史[Tanaka Kazufumi]

コロナで急減退のタイ経済
ミャンマーはベトナムに次ぐ

Withコロナ、Afterコロナ時代において、新たな形“New Normal”が求められている世界情勢。ミャンマーも例外ではなく、オフィスや工場ではソーシャルディスタンスが保たれ、今もまだリモートワークを続けている企業も少なくない。IMFやアジア開発銀行(ADB)はミャンマーの経済成長率を下方修正し、2020年4月の時点でIMFは1.8%、ADBは4.2%と発表。ただ、この数字はタイやインドネシア、フィリピン、マレーシアと比べて悪いわけではなく、タイにいたっては、IMFは−6.7%、ADBは−4.8%と極めて厳しい。ベトナム(IMFは2.7%、ADBは4.8%)だけがミャンマーを上回っており、やはり進出検討国としてのライバル関係はしばらく続くとみられる。

Withコロナ、Afterコロナでは、先進国も後進国も大きな違いはなく、ワクチンがないなかでの対策は横一線であり、医療が脆弱と言われながらもミャンマーも先進国同様に対応してきた。その一つが前述したようなリモートワークであるが、ビジネスマインドの成熟度という観点からも「果たして本当に機能するのか?」といった危惧は日本以上で、さまざまな課題が残っているのも事実。ミャンマーにおけるWithコロナ、Afterコロナの経済は一体どうなっていくのか?デジタルトランスフォーメーション(DX)は進むのか?NewNormalをどのように作り上げていくべきなのか?マクロからミクロまであらゆる視点から、今後のコロナ禍でのミャンマービジネスについて、JETROの田中所長に話を聞いた。

マクロ観点でいえば、まず田中所長はミャンマーの主要経済である第一次産業に言及し、「労働力人口の全体の約7割が第一次産業を占めており、それらが動き出しているので、大きな落ち込みは回避できている」と説明する。幸い今年はまだ洪水などの大きな天災も発生しておらず、中国やタイとの貿易も再開、第一次産業が回復すれば、辛うじてプラス成長を維持することができると見込む。さらに外国直接投資も電力などを中心に金額が増えている。先日、丸紅、住友商事、三井物産の商社3社による2000億円規模の電力開発が話題となったが、各種入札案件も止まることなく継続しており、コロナの影響を多少なりとも受けているものの、インフラ関係への投資は着々と進んでいるといっていいだろう。

製造業の筆頭である自動車産業では、コロナへの対応として車両を登録する道路運輸管理局(RTAD)が3月25日~5月10日に閉鎖されたものの、6月の販売台数は1985台(前年同月比18.3%増)、生産台数は1313台(12.0%減)と回復の兆しもみえる。上半期の販売台数は昨年同期を上回り、生産についてはコロナ以前からのバックオーダー(入荷待ち)が残っているため、日系自動車メーカーでは、工場の稼働が本格化している。また、食品メーカーに目を向けると、コロナの巣ごもり需要によって売り上げを伸ばした即席麺、健康飲料メーカーなどの好調ぶりは広く知られている。

再燃するチャイナリスク
ミャンマーに商機が訪れる

ポジティブなニュースはそれだけではない。今回のAfterコロナでシフトチェンジが起こるとされるのが、世界的なサプライチェーンの多元化。今回、中国に原材料を依存していた工場では、4月~5月に輸入が止まってしまい、稼働できなかったといったケースも報告されている。また、ウイルスの発生源も元をたどれば中国の武漢とされ、そうした背景から再びクローズアップされたのが“チャイナリスク”。一方、ミャンマーでは早くから感染者のトレースを徹底し抑え込みに成功、治安の悪化といった問題も起きず、平時を維持した。そして、国家間の協調関係では、先のみえない米中貿易摩擦があり、中国以外の国からの調達が進むとされ、そこでミャンマーという選択肢が挙がる可能性も高い。事実、経済産業省が推進する海外サプライチェーンの強靭化の支援事業では、コロナ禍で需給が逼迫している「医療用ゴム手袋」に対する支援が決定している。ミャンマーにおけるこうした支援対象企業の拡大を期待したい。

ティラワ経済特区にあるSUZUKI 工場。コロナ以前のバックオーダーも残っていたため、工場は変わらず稼働している。

日系企業のメインでもある縫製業では、感染者が拡大しているバングラデシュからミャンマーに興味を持つ企業も出始め、先日、田中所長も繊維製品の染色・仕上げ加工を行う愛知県のツヤトモとミャンマー国営企業との合弁企業のオンライン調印式に参加した。そうした動きからも、Afterコロナではミャンマーへの進出がさらに進むのではないかと期待値は高い。

また、世界的な潮流と同様にDXも避けることはできず、それはミャンマー政府の意向でもある。4月27日にミャンマー政府が発表した「Covid-19 経済救済計画(CERP)」があり、そこでは7の目標、10の戦略、36の行動計画が示され、金融刺激策、財源の確保、貿易・投資の促進といった目標のなかの一つに組み込まれたのが、イノベーションの促進。具体的な内容は、モバイル決済の利用、Eコマース・ソーシャルコマースの促進などで、つまりはリアル体験を介さないITサービスの拡充。スマホ所持率ほぼ100%のミャンマーだけに、マーケットはすでに醸成され、もっといえば、ログが残るために汚職の撤廃にも寄与するだろう。「コロナウイルス対策で革新的なアイデアを競うチャレンジ助成金」なども予定され、これまであまり進んでいなかったミャンマー政府のIT推進への本気度がうかがえる。日本でも定着していないオンライン決済がミャンマーで実現すれば、リープフロッグ現象が起きることとなる。(続く)

houjin2305
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