日本在住17年目のミャンマー人が見たクーデター

(最終回)ヤンゴン環状線でのスリル満点な任務

8月14日、ヤンゴン管区内を回る環状線の列車でPDF(市民防衛隊)による警察官たちへの襲撃事件が起きました。襲撃任務を担当者したPDF隊員が自らの報告をまとめていきます。

列車はヤンゴン中央駅を16時に出発した4両構成でした。襲撃を担当するPDFの各隊員が計画通りに別々の駅で待機して乗り合せました。事件の一部始終を襲撃を担当したPDF隊員で大尉の満月氏(仮名)が事細かに話してくれました。

満月氏は88年にもクーデターを経験していて、今回で2度目になります。今回のクーデターが起きる前は、ヤンゴンで暮らす一般的な市民でしたが、軍政下の苦しい生活を経験してきました。

PDFの入隊決意
2月1日のクーデター当初は、積極的に平和的なデモに参加していました。国軍の武力による弾圧が激しくなり、平和的な手段では対抗できないと判断してPDFに入隊することを決意しました。その後、EAO(少数民族武装組織)の支配下にある解放地域で戦闘訓練を受けました。訓練の後はヤンゴンに戻り、市街地での国軍に対しての襲撃事件を担当していました。

列車の襲撃事件
環状線での襲撃任務は、3分以内に完了させる計画でした。警察官たちへの襲撃と列車運転士への指示出しなど、担当が分かれていました。

満月大尉は警察官たちが乗った最後の車両に乗り込み、警察官たちから少し離れた場所で待機していました。警察官たちの前に最初に発砲する隊員たちが座りました。彼らが発砲し始めると近くで待機している別の隊員2人がしゃがみ込んで打込みました。更にその後ろから満月大尉たちが立ったまま打ち込んだそうです。

襲撃された警察官

使われたのは9ミリ弾を使う拳銃で、合計18発打込まれました。襲撃された警察官は6人で、5人が死亡し1人は重傷でした。

PDF隊員たちは、警察官たちが持っていた4丁のライフル銃を持ち、逃げることができました。任務完了後、予め待機している隊員が運転士へスピードを落とすように指示し、次の駅に入る前に逃走しました。

PDFの襲撃特集部隊
襲撃を担当したのは攻撃に優れた隊員たちで、武装者攻撃のために訓練されていました。襲撃時間は、2週間前から列車を観察して綿密に計画していたそうです。

警察官たちが持っていた武器

市民の犠牲を避けるため、利用者の一番少ない土曜日を選びました。また銃声を抑えるために、雨の時間帯に決行しました。市民とPDF隊員に怪我人はいませんでした。

PDF特集部隊と任務の目的
今まで似たような任務を10回ほど担当しました。しかし、戦いを望んできたわけではありません。警察官と軍人には「国軍の支配下から逃げるようにお願いしたい」と満月大尉は言います。国軍が引かなければ、このような襲撃は増えていくのは間違いないです。

PDFの隊員たちは、都会育ちで教育を受けてきています。また若者が多く、インターネットやハイテク機器を使い慣れています。こうした襲撃任務には、各隊員をサポートする中央司令室も存在します。警察官や兵士にむけてPDFを甘く見ないように注意喚起しました。

市民からの助け
市民の助けがなければ、この任務は達成できなかっただろうと満月大尉は言います。襲撃の一部始終を目撃した乗客も、国軍からの取り調べに対し間違った情報を提供し、捜査を遅れさせました。また、隊員たちが逃げたタイミングや場所についても曖昧な情報を教えた事によって、隊員たちは余裕をもって逃げ切れました。

善良な市民から暗殺者へ
普段は一般市民のPDF隊員たちは、銃の使い方や殺人などとは無縁です。それでもこの数ヶ月で映画さながらの襲撃を担当し、人を殺害するまでなったことには、正直なところ恐怖を感じます。

ただ、PDF隊員がこうならざるを得ない理由があります。国軍が無防備な市民を理由もなく殺害し生活を破壊する行為が、善良な市民たちを追い詰めた一番の要因だと思っています。市民を守ってくれる警察官もなく、兵士の姿を見ただけでゾッとする気持ちになります。

国軍崩壊の鍵
国軍がここまで乱暴に命を奪い取り続けられるのは、国軍を支えている警察官や兵士に責任があることは間違いありません。国軍の行動が間違っていること認識している警察官と兵士も大勢います。彼らがCDMに参加し、国軍の思い通りに動かないだけでこの問題は解決します。

最近になって、毎日のように数十人規模で脱走する兵士が増えています。国民も脱走兵を快く受け入れるようになってきています。

国軍兵士の置かれている状況
EAOとの戦闘では、酷い場合は100名近くの兵士が命を落とすこともあります。また、輸送車両の爆破により数十人規模の死者を出す情報にも、今では驚きさえしなくなりました。それでも、国軍の上層部は「保身」のために兵士を家畜のように扱います。

北シャン州戦闘で戦死して部隊において行かれた国軍兵士

死亡した兵士の遺体は、その場に置いていかれます。きちんと埋葬されることはありません。7月のカヤー州の戦いでは、EAOとPDFの連合部隊が死亡した国軍兵士の埋葬をしていました。国軍は、兵士の遺族への支援や生活の保証はしません。兵士の死亡が家族に知らされないことも多々あります。

満月大尉のお願い
今はもう、中立ではいられません。どちらかハッキリ示す必要があります。気持ちは市民側でも、警察官や兵士の制服を着て武装したままでは市民は信頼することができません。実際に行動で示す必要があります。手遅れになる前に、家族を連れて逃げ出して欲しいと満月大尉は言いました。

国軍の記者会見で、USDP党(実質上国軍支配下の政党)の党員で、地区管理者や国軍への情報提供者が170名以上暗殺されたと発表しました。しかし、国軍からは兵士の死亡者数の発表はありません。

戦闘での死亡、CDMに参加して国軍へ反逆する兵士、脱走するなどの国軍兵士が合計5,000名以上にのぼるとの情報もあります。
今は、国軍兵士が武器を持って投降すると賞金20万円が支払われ「安全」を保証して受け入れてくれるシステムも構築されつつあります。もはや国軍の崩壊は時間の問題です。

※この連載は今回をもって最終回となります。これまでご愛読いただき誠にありがとうございました。

テウインアウン
日本在住17年目のWebエンジニア
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