初の挑戦! 父母と共に歯磨き800人
 ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(MFCG)の代表理事・医師の名知仁子です。いつも応援を頂きありがとうございます。
 皆さんは歯ブラシを使い始めた時のことを覚えていますか?
 日本に生まれた育った人は、物心ついた時から朝起きたら顔を洗い、歯を磨くことを習慣としているのではないでしょうか。
 日本は80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという「8020(ハチ・マル・二イ・マル)運動」を推進しています。それはなぜだと思いますか?
 歯磨きを怠ると、虫歯や歯周病のみならず誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎のリスクも高まります。また、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病を引き起こすほか、女性の場合は早産や低体重児出産など様々な要因となりうるのです

へき地では歯ブラシは高級品

 私たちMFCGは、歯ブラシの交換と正確な歯磨きを住民に学んでもらう活動を2016年から開始しています。今回は無医村のガヤジ村で、幼稚園から中学生までの子どもたちに両親同伴の「歯磨き啓発運動」を行いました。総勢800名の歯磨き指導です。
 ミャンマーのへき地では、今でも塩や炭、木の葉などで歯を磨いています。日給350円ほどの彼らにとって、1本190円の歯ブラシはあまりに高価なのです。当然、優先順位は低くなってしまいます。
 私たちは、歯ブラシで正確に歯を磨くとどのくらい健康に寄与できるのかなどを丁寧に説明し、実際に歯ブラシを渡して一緒に磨きます。最終的に、自主的に歯磨きをするようになるまで何度も繰り返します。気の遠くなるような根気と辛抱強さが必要です。
 今回はこの歯磨き指導を400名の生徒だけでなく、ご両親にも実施しました。なぜならば、子どもたちだけに指導してもご両親は歯磨きの重要性を理解できないからです。さもなければ、親は「歯を磨く時間があるなら池に水を汲みに行きなさい」と言うに違いありません。電気もないこの村では、水汲みは子どもたちの重要な仕事のひとつです。しかし、家族全員分を運ぶには2~3時間はかかるので、終わる頃には外は真っ暗です。夕飯を食べ、疲れ果ててそのまま寝てしまいます。そうならないためにも、ご両親の理解が必須なのです。

2023©MFCG

歯磨きを持続可能な取り組みに

 ほとんどのご両親は、歯ブラシを手にするのは初めてでした。握り方すらもわかりません。指導を進める中、グループに分かれお互いに磨き方の練習やチェックを行いました。最終日には、これから4か月間毎日歯磨きができるか、磨き方を友人や近隣の人たちと共有できるかなどを書き込むチェックシートを渡しました。様々な工夫を凝らし持続可能な方法を伝えています。
 この試みが家族の絆も強くしてくれると嬉しいなと思いつつ、今日も現場の村に向かいます。

(2023年12月号掲載)

名知 仁子
[NACHI SATOKO]

1963年生まれ。1988年獨協医科大学を卒業後、日本医科大学付属病院第一内科医局入局。2002年、国境なき医師団に入団し、同年タイ・メーソートの難民キャンプ、2004年からはミャンマー・ラカイン州で医療支援に携わる。また、2003年には外務省のODA 団体、ジャパン・プラットフォームの要請で、イラク戦争で難民となったクルド人の医療支援に参加。2008年には、サイクロンで被災したミャンマーのデルタ地域で緊急医療援助に参加する。同年、任意団体ミャンマークリニック菜園開設基金を設立し、2012年6月にNPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(現MFCG)設立、現職。

ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会:https://mfcg.or.jp/