結膜炎の拡大@ミョーハ村
 ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(MFCG)の活動地ミャウンミャから車で45分ほどのミョーハ村での出来事です。2015年から通っているこの村は、381世帯で1,308人が暮らしています。MFCGは今年の10月10日、1年2か月ぶりにこの村で保健・医療活動を行いました。この村は精米工場などもあります。私たちが支援している他の15村よりも比較的豊かな生活をしている印象があり、支援の優先順位が低くなっていました。そのため、しばらくぶりの活動となりました。

各地で結膜炎が流行

 9月中旬ごろから、ヤンゴンなどで目の感染症が流行っているという情報が入りました。聞き取り調査を行ったところ、ミョーハ村でも目に感染症の疑いがある患者さんが多数いるので助けて欲しいとの要請がありました。
 実態調査と治療、さらに予防法の講習会を行うために、まずは現地担当の助産師と面談し、この1年間の住民の健康状態や一番多かった病名、患者さんの数や亡くなった方の有無などの確認を行いました。その結果、MFCGの保健衛生講座に参加してくれた26名のうち10名が結膜炎に罹り、家庭内感染も増加していることが判明したのです。一家族で5名が感染する事例も確認されました。
 いずれの患者さんもどのように処置して良いかがわからず、顔を拭いたタオルを使いまわすなどの行為により家族への感染が拡大していました。私たちはまず、目の洗い方を丁寧に説明しました。お湯を沸かし、冷めるまでの間に石鹸で手を洗う。そのきれいな手で冷めたお湯を使い、感染を起こした眼だけを洗い流す。その後は自然乾燥させて、タオルなどで洗った眼の部分は触らない。これを毎食後の3回と寝る前1日4回、最低4日間は継続するなどの基本的な方法をお伝えしました。
 その後、患者さんに皆さんの前でデモンストレーションをしていただきます。ただ聞いているだけでなく、実際にご自身で眼を洗ってもらうのです。そうすると、聞いていたイメージと実践するのとでは違うことに気が付かされるのです。
 学校に行ったことがない人たちが、自分たちで自分の健康を守るためには、わかりやすく覚えやすいことがとても重要です。それが対策の継続に繋がることも長年の経験から学ばせていただいたことです。

2023©MFCG

貧困による健康の悪化を懸念

 今回の調査では、疥かい癬せん症の家族が多いことも明らかになりました。疥癬とは、ヒゼンダニが皮膚に寄生しておこる皮膚疾患で、体や四肢に激しい痒みを伴います。
 また、生活が苦しくなり、卵1個すら買うことができないという家族もいました。生後5か月の赤ちゃんを抱えるお母さんは、母乳が出ないと嘆きます。母子ともに栄養不良でやせ細っているのです。母親の栄養状態は、赤ちゃんの栄養不足に直接影響を及ぼします。そのような家庭は、当然衛生状態にも影響が出ています。
 私たちは今回、石鹸の配布も行いました。食事がままならない状況では石鹸は買えず、生活環境も不衛生にならざるを得ないからです。
 人口の8割が暮らしているといわれる農村部の人々の健康状態が、悪化の一途をたどっていることを懸念しています。各家庭に最低限の栄養が行き渡るよう、MFCGはできることを実行に移してい行きたいと思います。引き続きご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。

(2023年11月号掲載)

名知 仁子
[NACHI SATOKO]

1963年生まれ。1988年獨協医科大学を卒業後、日本医科大学付属病院第一内科医局入局。2002年、国境なき医師団に入団し、同年タイ・メーソートの難民キャンプ、2004年からはミャンマー・ラカイン州で医療支援に携わる。また、2003年には外務省のODA 団体、ジャパン・プラットフォームの要請で、イラク戦争で難民となったクルド人の医療支援に参加。2008年には、サイクロンで被災したミャンマーのデルタ地域で緊急医療援助に参加する。同年、任意団体ミャンマークリニック菜園開設基金を設立し、2012年6月にNPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(現MFCG)設立、現職。

ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会:https://mfcg.or.jp/