税務調査(TAX AUDIT)が増えております
 2022年から多くなってきたTAX AUDIT。多くの日系企業さんも既に経験されておられるかと思います。TAX AUDITにあたって、まず重要なのは、2019年に施行されたTAX ADMINISTRATION法に基づいた証憑の保存、記帳の義務の徹底です。

 賦課決定方式の時代のタックスクリアランスにおいては、税務署に提出する書類はコピーであったため、大量のコピーを作成し、要請に応じて、税務署に持ち込むといった方法が取られていました。しかし、2019年、申告納税方式がスタートし、日本と同様にTAX AUDITという税務調査が行われることとされました。

 将来的には、現地での税務調査が主流になるかと予想されますが、現在では、まず証憑を預けて行うといった形式の調査が行われています(この預けた証憑を無くされる、といったことも有り、困ります)。このTAX AUDITにおいては、オリジナルの証憑の提出が求められます。また、記帳された元帳に基づいて、一つ一つ細かなチェックが求められます。経費についても、減価償却の妥当性、交通費、通信費、人件費、交際費を始め、損金性の詳細な検証が行われます。

 指摘されるポイントについて、当局の担当チームによっては、意外と納得性の高い指摘も見受けられます。最近は、当局からの見解を統一化していこうという動きも見られます。

 しかし、細かな通達が公表される訳では無いため、担当チームによっては、納得のいく説明がもらえないなど、対応にバラつきがある印象です。納税者側においても、損金の正当性について、しっかりと説明できるように、証憑の保存や、会計処理に関するストーリーの記録などをしておく必要があります。

 外資系案件に慣れているLTO、MTO1、2については、納税者側からの抗弁に対して法令に照らし、交渉を受け入れてくれる場面も多く見受けられますが、ローカルを所轄するMTO3などにおいては、担当官の知識の不足や、申告納税方式が徹底されていないという理由により、抗弁を受け入れない外形標準的な賦課決定課税が行われる場面が未だ散見されます。

 清算・撤退する企業については、高い確率で税務調査が行われます。事業所を閉めて、清算の登記も完了し、銀行も閉鎖し、完全に撤退した(と思っていた)数年後に税務調査がくるという事例もあります。その際に、頼んでいたローカルの会計事務所に連絡がつかず、困ったというスポットのご相談事例も有りました。

 証憑の保存期間は、7年間。オリジナルの資料を提出できない場合には、罰金もあります。TAX AUDITに対応できる様に、書類の保管についてどういう対策を行っておくべきか、検討していく必要があるでしょう。

 2018年頃までは、賦課決定方式により、赤字であっても外形標準的に課税されるなど、諸々の問題も多く、それを受けて申告納税方式が導入されました。TAX AUDIT制度が進んでいく中で、改善された面もありますが、政変後の傾向として、従前の不当な課税を髣髴とさせる場面も逆に見られるようになりました。

 法律の立て付けと実際の運用、担当者によって異なる見解など、少し前より混沌度が増した感があります。ミャンマー事業所の責任者の方が、本社サイドへの説明を行われる際には、そのあたりのバックグラウンドの変化についても、少し補足しておいた方が良いかもしれません。

(2023年10月号掲載)

執筆者プロフィール

若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。