スタッフのメンタルケア、福利厚生
 弊事務所では、コロナ禍の頃より、毎朝オンライン朝礼を行っています。今はもちろん全員リアルで出社しているのですが、社内で部屋が分かれているため、現在もオンラインです。冒頭は、私が明るく挨拶を行って、ファシリテートを始めます。毎日行っているルーティーンの内容は下記の通りです。
①スタッフ持ち回りのスピーチ(自由テーマ)
②マネージャー陣からの伝達事項
③各スタッフから全体への業務連絡
④ナレッジシェア(事例・制度改正・失敗談・新しく得た知識などなど)
⑤私の当日スケジュールとみんなへの檄

 始めた当初は、私が一方的に話すといった朝礼でしたが、それだと、みんな受け身になってしまうし、ネタも尽きてしまうので、途中から持ち回りで、スピーチをする人と、ナレッジシェアをする人をそれぞれアサインすることにしました。スピーチについては、自由なテーマで、自分の主張を展開します。ナレッジシェアについては、税制改正や、会計の仕訳、ソフトウェアの便利ポイント、エクセルのフォーマット、お客様対応の事例、失敗談、新しい各種提出フォームなどなど、得た知識をみなに拡散して情報共有をしてもらおうという趣旨で行っています。

 コロナ禍、そして政変からだいぶ経ち、厳しい情勢が延々と続くミャンマー。先行きが全く見えず、制度についてコロコロ改悪が行われる中で過ごすということは、駐在員は元より、現地ローカルスタッフのストレスも相当のものと言えます。弊事務所は、女子社員率90%ですので、毎朝のスピーチの中でも彼女達が今どんなメンタルの状態を持って生活をしているのかという点が良く垣間見えて、興味深いです。自由スピーチでよく出てくるテーマは『いかに、感情をコントロールするか』『健やかに過ごすためのポイント』『健康に良い食べ物』といったもの。まだ若い社員が多いという理由も有りますが、不安な日々の中、どうにかしてしっかりと精神を落ち着かせていきたいという様が見受けられます。

 現在の国の状況はすぐに変わるといった様相ではありませんので、今後も従業員のメンタルケアについては、丁寧に行っていく必要があると言えるでしょう。今回は、弊事務所で行った、もしくは行っている福利厚生の事例をご紹介します。海外に流出していく人材が多い中、様々な理由でミャンマー国内に留まって、キャリアを作っていこうとしている従業員の為に、会社を家族のように感じてもらい、ここにいて良かったと思ってもらえる教育と福利厚生を提供していきたいと考える毎日です。

 コロナ禍以前には、従業員の健康を考えて、社員の健康増進プログラムを開催しました。1か月に2回、2時間ほど、栄養教育と筋トレのレクチャー、並びにお弁当の栄養バランスチェックを行うといったものです。半年間に渡るプログラムの結果、社員の健康への意識は向上し、病欠を理由とした欠勤は、ほぼなくなりました。その後、コロナ禍に突入し、この時の知識が非常に役立ちました。

 身だしなみ教育として、プロのメイクの先生を招いて、メイクレッスン講座を行ったこともありました。パーティーメイクとオフィスメイクの2日間レッスン。まだ社会人としてのメイク知識も無い若い女子社員が多いので、大好評でした。

 政変からしばらく経ち、以前から行っていた寄付も再開しました。給料の1%程度を会社で負担し、これに社員が寄付を加えて、困っている方々にお渡しします。その際には、どんな方々が行っているのか、どの様な方が困っているのかをレポートし、みんなで問題について考えます。元来、寄附大国のミャンマーですので、この取り組みは、全ての社員が非常に好ましく参加してくれる行事です。

 今年は、料理教室も始めました。先日は、日本人料理家の先生をお招きして、八宝菜、かに玉、マンゴープリンをみんなで作りました。家庭科の調理実習の雰囲気。みんな大喜びでした。完成した料理を、お酒と共に楽しみました。

 確定申告の打ち上げは、カラオケ。お店を借り切って、午後からノンストップ。ご飯を食べつつ、5時間ぶっ通しで歌いました。日本とミャンマーで同じ歌もあります。私もみんなが知っている歌を歌って、大盛り上がりでした。

 福利厚生も重要ですが、ミャンマー国内に居てもしっかりとしたスキルが身に付き、キャリアデザインも継続していけるというメッセージはさらに大切。日本人マネジメント層による直接の内部セミナーも有効と思います。この苦難の時期にこそトップ自ら、自社の使命や業務に取り組む際の姿勢を改めて伝え、より密に社員とのかかわりを持つことは、社員のメンタルケアにとって一番必要なことと言えるでしょう。One onOneミーティングの頻度も多めに設定すると効果的と思います。

 人材は常に宝。大切な従業員のみなさんのメンタルを守って、ミャンマー事業をしっかり続けて参りましょう。

(2023年9月号掲載)

執筆者プロフィール

若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。