ミャンマー日系企業・行く人来る人

 最近、日本から出張等でいらっしゃる日本人ビジネスマンが増えてきました。日本とミャンマーの直行便が無くなって久しいですが、現在、経由便については、バンコク、KL、シンガポール、仁川などなど、選択肢もあり、便数も増えています。ただ、ミャンマー→バンコク便については、便によってはすぐに予約が埋まってしまうため、早めの予約が必要で、かつ、便を変更しようとしても、次の日に変えるといったことができない場合があるようです。

 久しぶりにヤンゴンを訪れた方は、渋滞の状況や飲食店の賑わいなどをご覧になって、『意外と落ち着いているんですね』という感想を述べられます。百聞は一見に如かず。しかし、ヤンゴンの状況だけを見て、ミャンマー全体を測るということもまた違います。なるべく多くの方にあたって、情報を収集されることをおすすめしています。

 みなさんの所用は、様々です。行く人来る人。まだ数は少ないですが、新たに事業を始めに来緬される企業担当者さんもいらっしゃいます。休眠・撤退の決断や準備のために来緬される企業もあります。

 現在のミャンマーにおけるビジネスの最大の問題は、政治的な面で先行きが見えないということと、金融の問題です。日系企業については、縫製業を主とする製造業関連、オフショア事業、人材の送り出し関係の事業については、その様な困難の中でも頑張っている業種です。

 このような時期に新たにミャンマーで事業を立ち上げようという企業については、やはり人材関連が多くなっています。日本では、多くの業界において人材が不足している、または、近い将来人材不足が顕著になるといった状況。政変があったとはいえ、ミャンマーの宝は人材。人材のポテンシャルが高いことには変わりありません。この点については、オフショアも同様です。英語力が高く、勤勉で真面目なミャンマー人スタッフは、伸びしろが非常にあります。今や、日本企業は他の諸外国企業と比べて決して給与が高いという訳ではありませんので、いかに優秀なミャンマー人材に自社の魅力を感じてもらうかという点が、非常に重要となっています。

 休眠・撤退する企業については、やはり建設業関連が多くなっています。元来、プロジェクトベースで活動することが多い業界なので、流動的な動きにも慣れているといった特徴も有ります。製造業が撤退する場合は、より多くの困難があります。MICを取得している会社が撤退する場合には、これまでに受けた免税の特典を全額返還しなければなりません。投資法に明記されています。撤退にあたり、閉鎖をするのか事業譲渡するのか、休眠をしてしばらく様子をみるか、現在検討を行っているという企業も、多くはありませんがみられます。

 現在の休眠・撤退の動きについては、第4波といった様相です。第1波は、コロナ禍が始まった2020年前半です。この時は、創業してからずっと赤字が続いている会社が、コロナ禍の先行きの不透明さにより、事業を断念したという事例が多く見られました。

 第2波は、2021年2月の政変です。コロナ禍にリモートなどを駆使して収束を待っていた企業でも、政治的な不透明さを前にリスクと自社の戦略を照らし合わせて撤退するという事例が散見されました。

 第3波は、2022年4月の金融問題の勃発です。ドル口座の強制兌換や凍結、海外送金の困難など、企業運営の根幹にかかわる資金繰りのリスクが発生し、事業モデル的に継続が困難という判断をした企業の撤退が見られました。

 そして、2023年現在は第4波です。これまで3年半、様子を見てきた上で、最終決定を今期行うという事例です。大手企業にみられる動きです。業界的な問題というよりも、休眠・撤退については、各社の経営の判断に寄るところが大きくなっています。周りの動向を見て同調する傾向がありますので、しっかりと、事業継続の可能性や、今後事業を再開するときの企業イメージなどを考慮して検討する必要があると言えるでしょう。

 撤退の場合、高い確率で税務調査が行われます。この調査が、撤退した後だいぶ経って、数年後に来るといった事例も起こっています。オリジナルの資料に関しては、7年間の保存義務が規定されていますので、撤退後も資料を保管しておく必要があります。

 ミャンマービジネスについては、困難な環境が続いておりますが、中長期的な観点から冷静にビジネスチャンスを測る必要があるでしょう。そして、現在でも、人々の素晴らしさは全く変わっていません。

(2023年8月号掲載)

執筆者プロフィール

若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。