飲める水を求めて…

 今回は、安全な飲み水が70年間なかったシュエポ・コン村(43世帯)のお話です。

 この村はミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(MFCG)の活動地ミャウンミャから車で2時間ほどのラプタにあります。70年前、この地に初めて移住した住民たちは村の横に流れる汚い水を汲んでは煮沸して飲んでいました。そして、その手法は現在まで続いていました。しかし、一見しただけで、その水はとても飲める代物ではないのは明白です。ここはMFCGの活動地ではないため、考えるべきことも多々ありましたが、私たちは「命」に直結する水の支援をすることを決意したのです。

つくるだけでは意味が無い

 初めてシュエポ・コン村を訪れたのは今年の2月10日。住民と水の管理コミッティメンバーを決定し、毎週のように訪問しては話し合いを重ねました。ポイントは、いかに自分たちで管理ができるか?持続可能な運営体制が構築できるか?の2点です。最新装置を設置したとしても、住民たちが修理などをできないと意味が無いのです。

 これまで私は、放置されたままになった井戸を各地でたくさん見てきました。その多くは様々な団体が善意で設置したものなのですが、修理や定期点検などの方法が共有されず、最終的には使えなくなったまま放置されているのです。もったいない話です。

 だからこそ、MFCGが設置するときには「永続的に使える」システム作りを村の住民と合意してから行うことを決めていました。この村の世帯数自体は43世帯と多くありませんが、結束は固くボランティアたちも志願して集まります。

地下水から有毒物質が

 私たちはまず、水質調査から始めました。ヤンゴンとパテインの検査機関に提出した結果、規定以上の鉄分とクロライド(塩化物)が検出されました。余分な鉄は肝臓に蓄積し、深刻な損傷を引き起こす可能性があります。そのため、飲み水にするために鉄分を除去するフィルターが必要になります。しかし、43世帯をカバーできる規模のフィルター装置はパテインには無く、ヤンゴンに発注しなければなりません。また、シュエポ・コン村は私たちの活動エリアではないため、セメントを購入するにも品質の良いものをどこで買えばよいのかわかりませんし、混ぜ合わせる砂の量もチェックしなければなりません。レンガは品質がバラバラなので、粗雑品を手にしないよう信頼のおける店舗を選ぶ必要もがあります。

 結局、余計なリスクは負えないのでセメントはミャウンミャで購入することになったのですが、運搬費用が高額で絶句しました…。

 雨季になるとセメントが乾かないなどの問題も起こるので、1つ1つの作業を進めながら毎回住民たちと進捗を確認し、計画を練り直します。とても根気が要るのですが、住民との信頼関係も徐々に芽生え、彼らの「生き様」も感じられるようになります。協働作業はとても重労働ですが、最終的には楽しくなってきました。

 4月25日からフィルター付きの井戸の工事が始まり、6月22日の完成を予定しています。この井戸にかかる費用は2400万チャット(約160万円)です。命を育み夢を繋げる!そんな活動を今後も継続してまいります。引き続きのご支援、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2023 ©MFCG

(2023年7月号掲載)

名知 仁子
[NACHI SATOKO]

1963年生まれ。1988年獨協医科大学を卒業後、日本医科大学付属病院第一内科医局入局。2002年、国境なき医師団に入団し、同年タイ・メーソートの難民キャンプ、2004年からはミャンマー・ラカイン州で医療支援に携わる。また、2003年には外務省のODA 団体、ジャパン・プラットフォームの要請で、イラク戦争で難民となったクルド人の医療支援に参加。2008年には、サイクロンで被災したミャンマーのデルタ地域で緊急医療援助に参加する。同年、任意団体ミャンマークリニック菜園開設基金を設立し、2012年6月にNPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(現MFCG)設立、現職。

ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会:https://mfcg.or.jp/