駐在員の給与負担割合。オンライン納付

 新年度もスタートし、新たにミャンマーに赴任された方もいらっしゃると思います。この時期にいつも説明させていただいているのが、日本の税法における駐在員の方の所得負担割合についてのお話です。

 在ミャンマー駐在員の方の日本とミャンマーにおける給料負担割合については、日本の親会社とミャンマーの子会社との間で、その駐在員のお給料について、どちらがどれくらい負担するのかを適正に決める必要があります。この負担割合というのは、お給料を日本で振込支払しようが、ミャンマーで現金で支払おうが、そこは判断ポイントではありません。2社、あるいは複数社で、その給料のうち、どれだけを負担しているのかというところを見ていくことになります。

 海外出向者の給料について、関連企業である子会社に出向しているのだから日本本社が給料を負担してもいいという考えは、日本の税法では通用しません。海外子法人と親会社とは、別法人ですから、出向者にかかる費用は、出向先が全額負担すべきいうのが基本的な考え方です。しかし、例外として、税務上、通達(法基通9-2-47)で認められた給与格差の補填部分等に関しては、日本親会社側での損金算入が認められる、というのが、日本の税法上のたてつけです。やっかいなことに、具体的にどこまでを日本側が負担してよいといった明確な規定がなく、個別に判断がなされるために、注意が必要となってきます。

 親会社が負担する格差補てんの為の給与の取り扱いについては、日本の税法では、法人税法基本通達9-2-47に定められています。事例としては、①出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため、出向元法人が当該出向者に対して支給する賞与の額 ②出向先法人が海外にあるため、出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額の2つがあげられています。

 ①について格差補てんの対象として負担すべき額を認識するのは比較的容易なのですが、②については、その内容を明らかにしていない為、その運用にあたって見解の相違が生じる場合があります。いわゆる留守宅手当というのは、海外に赴任する出向者の家族が日本に残る場合のその生活費等を主とします。会社によっては、ハードシップ手当、現地教育手当など出向元である親会社が負担する場合もありますので、慎重に検討していく必要があります。

 出向者の給料については、単純に本社と子会社で何%負担するという取り決めをしていれば良いということではありません。日本側での税務否認を防ぐために必要なポイントは、出向先が負担すべき金額を負担しているかどうかという点になります。つまり、出向者と同等の職務、能力を持つミャンマー現地採用者の相場を参照等して、ミャンマーの出向先が、負担すべき相当の額をきちんと負担しているのか、という点が重要ということです。この金額以上を子会社が負担している場合には、税務否認されるリスクは下がります。また、海外出向者について、給与のみならず、旅費その他の費用等の取り扱いについても、海外出向規程などで、しっかりと負担の根拠を定めておく必要もあるでしょう。

 給与格差の補てんについて、合理的な事由なく出向元が負担している場合には、日本側で、寄付金課税の適用を受ける可能性もあります。出向の格差補てん金について、移転価格税制の対象となることは考えにくいですが、技術やノウハウを持った社員を出向させる場合に、無形資産等の移転があったとして、移転価格税制の適用対象取引を認識すべき場合もあるので注意が必要です。

 上記は、日本の国税の対応方法となります。ミャンマー側においては、居住者、非居住者それぞれにかかる課税対象所得に対する課税について考えていかなければなりません。滞在期間、仕事内容によって課税対象所得は異なります。居住者については、全世界所得が課税対象となります。この4月から、これまで一部例外的に行われてきていた銀行窓口での納付について、全てオンライン納付への移行を行う様にとのアナウンスがなされています。複数社から給与を受けている場合で、ミャンマー国内の事業体で全額の源泉納付ができない場合などは、別途納税者番号を取る必要があります。登録に時間がかかる場合がありますので、早めに対応をしておきましょう。

 また、前述した出向者にかかる旅費等の子会社側での負担については、法人所得税の課税所得を考える上で重要です。契約書の条項などを厳しく見られる場合も散見されます。根拠資料はきちんと整えて、税務調査に備えておきましょう。

(2023年5月号掲載)

執筆者プロフィール

若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。