ミャンマーローカルスタッフのマネジメント(5)

 前回までは、立ち上げ以来苦しんでいた離職率が0になるまで、苦しみの中であみだし、行ってうまくいった下記の様な施策についてご紹介してきました。
①ロールモデルとなるキーパーソンを採用する
②個の成長を促せる仕組みづくりをする
③ミャンマー文化を取り入れて、もう少しでよいことがあると感じられるイベントを行う

 今回は、最終回です。ここまで読んでいただいた方々には、唖然とさせるようで、大変申し訳ないのですが、ここで、どんでん返しとなります。今のミャンマーの人材市場の動向を象徴するようなエピソードと思い、恥を忍んでまたご紹介することとしました。

 さて、離職率ゼロを更新し、順調に社員が定着し、ミャンマーオフィス開設10年目を迎えた去年、コロナ禍などで行けなかった、社員旅行を3年ぶりに計画しました。コロナ前は、タイやベトナムなど、海外に行っていたのですが、昨今のミャンマーチャットの下落を鑑み、お土産代などに苦労するだろうと、また、タイに行くのと同じ旅費なら、ミャンマー国内で少しグレードが高い旅行をしましょうという趣旨からです。行き先は、ガパリ。ミャンマー屈指の海岸リゾート。日程は、なんと晦日から3泊4日のまさに年末年始。この日程で、みんなで旅行に出かけて新年を迎えるなんて、まさにファミリーになったものだなあと、私は、ひそかにご満悦でした。

 旅行自体は、みなで、ビーチで泳いだり、ラッキードローをしたり、お寺を訪ねたりと楽しい内容で、飛行機や海が初めての新入社員もいたりなど、みんなで和気あいあいと過ごすことができ、社員満足も高かったと思います。

 問題は、年が明けて、仕事初めも終えた1月2週目の月曜日でした。なんと、同時に4人の社員から辞職願が提出されたのです。一瞬、頭の中が真っ白になりました。そして、様々な思いが頭を駆け巡りました。「 社員旅行で楽しそうにしてたのに。。」「辞職願を出す予定だったのに、隠して社員旅行に行ったのだろうか。。」「何が理由なんだろう。。。」

 我が社は、離職率0が長年続いていて、辞職願を受け取ることもしばらくなかったので、なおさらショックでありました。1月と7月は昇給月であるため、1月の昇給についても検討していた最中でした。ひとまず、理由を知らねばなりません。早速時間を作って、辞職願を出した4人と面談することにしました。

 退職願を出した4人とも理由は同じでした。「シンガポールに働きに行く」というものでした。詳しく話を聞いたところ、現在、ヤンゴンでは、シンガポールで働くための予備校の様なものが流行していて、みなそこに通っているというのです。来たか。。と思いました。政変後、ミャンマーの若者たちの国外流出は激増しています。

 以前の政変時と同じ様な現象です。前回は、日本に行った子達が多かった。もちろん、今回も、技能実習、特定技能や社内転勤、留学などで日本に渡航を希望するミャンマー人材は多いです。しかし、今回は、ホワイトカラーについては、日本以外を選ぶ人がとても多い傾向にあります。シンガポールは、特に日本の給与水準を遥かに超えるため、実際に就業のチャンスを得ることが出来れば、ミャンマーのみならず、日本で働くよりも遥かに高額の給与を得ることができるのです。

 手塩にかけて育てた社員達。英語で国際会計基準にも対応できます。シンガポールでも通用するスキルは身につけたはずです。その彼女らが 新しいチャレンジをしたいというのなら、どうして反対することができるでしょう。ショックの中にも、成長を喜ぶ思いも有りました。

 次に気をつけなければいけないのは、残るメンバーのケアでした。それについて、考え抜いた末に、ついに秘策を考え出しました。そしてすぐに実行に移しました。

 効果は現れました。新しく入社した社員、現在頑張っている社員達も、希望を持ってまた成長を目指すマインドセットを作れる施策です。この秘策については、機会があれば、直接お目にかかった際にお話できればと思います。

 ミャンマーは、本当に優秀な人材に溢れた国だと思います。困難な時期では有りますが、そのポテンシャルは、決して変わっていません。中長期的な視野で、どうやったら日系企業で納得して働いてもらえるか、これから各社真剣に検討していく必要があるでしょう。

 日本と最も親和性が高い国の1つであるミャンマー。日系企業の現地社員達がこれからも健やかに働ける様、みなで取り組んでいきたいものです。

(2023年4月号掲載)

執筆者プロフィール

若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。