少女の成長物語

 今回は、私たちが巡回している120世帯のモージョーパン村に住む、10歳の女の子の成長物語をお伝えしたいと思います。
 彼女の名前はダジン・ヌエさん。5人兄弟姉妹の3番目で村の小学校に通っています。MFCGが活動を開始した2015年にはこの村に学校はなく、衛生環境は最悪の状態でした。人々は、手洗いやトイレの重要性など、身体を清潔に保つ大切さなどを知らないために不衛生な生活を送っていたのです。多くの人が皮膚病などを患い、治療も出来ず悪化していました。しかし、4年前に村の有志を中心としたボランティアにより小学校が建てられ、子どもたちの気持ちが前向きになったことを顕著に感じました。

僻地では歯ブラシが買えない
 先日私たちは、保健衛生啓蒙活動の1つである歯ブラシの交換プロジェクトを行いました。この村では、歯ブラシの交換と正確な歯磨きを住民に学んでもらう活動を2016年から開始し、2~3か月に1回のペースで行っています。ミャンマーでは歯ブラシを作る工場がありません。僻地や無医村では、歯を塩や炭、木の葉などで磨いているのです。村には1軒だけ雑貨屋がありますが、優先順位が低い歯ブラシは在庫すらないことが多いのです。
 歯を大切にする活動の一環である「歯ブラシ交換プロジェクト」。しかし、巡回している16村のうちここは唯一稲作ができない村で住民はお米を買わなくてはなりません。仕事は日雇いがほとんどで、安定した収入がある住民は数世帯だけです。ダジンさんの家族もお米を買うことが精一杯で、家族に小学校を卒業した人はいません。

7年間の苦労が報われる瞬間
 私がダジンさんと初めて出会ったのは、彼女がまだ3歳でお乳を飲んでいた頃でした。そんな彼女も家計を助けるために、5歳の時には池まで桶を担いで水汲みの仕事をしていました。本当にか細く、栄養不良で骨だけのような感じで、皮膚病を患うことも多かった状態。しかし、飛び切りの笑顔を見せてくれる可愛い少女です。
 この村で「歯ブラシ交換プロジェクト」を開始した時から、時間が許す限り毎回のように参加してくれたダジンさん。しかし、正しい歯磨きの方法を覚え、定着させるのは難しいのが現実です。せっかく配った歯ブラシを家計の足しにするために売ってしまう家族や、覚えてもすぐ忘れてしまう人もいます。
 先日学校が休みの日に、大勢の子どもたちが歯磨きの衛生指導に参加してくれました。その際「誰か我々が教えた歯磨きの仕方を皆さんに教えてあげられる人はいませんか?」と呼びかけたところ、2名の大人とダジンさんが手を挙げてくれました。しかし、先にお手本を示した2名の大人の歯磨きの方法は間違っていました。ところが、彼女はほぼカンペキに正しい磨き方を参加者に伝えてくれたのです。ほんとに嬉しかったです。

 これまで7年間の苦労がいっぺんに報われた!そんな思いで心からの歓びを看護師のメンバーと共に分かち合った一日でした。

2023©MFCG

(2023年1月号掲載)

名知 仁子
[NACHI SATOKO]

1963年生まれ。1988年獨協医科大学を卒業後、日本医科大学付属病院第一内科医局入局。2002年、国境なき医師団に入団し、同年タイ・メーソートの難民キャンプ、2004年からはミャンマー・ラカイン州で医療支援に携わる。また、2003年には外務省のODA 団体、ジャパン・プラットフォームの要請で、イラク戦争で難民となったクルド人の医療支援に参加。2008年には、サイクロンで被災したミャンマーのデルタ地域で緊急医療援助に参加する。同年、任意団体ミャンマークリニック菜園開設基金を設立し、2012年6月にNPO法人ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(現MFCG)設立、現職。

ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会:https://mfcg.or.jp/