我慢が続く日系企業の事業活動
~権威主義国家との連携強化~

2021年2月の政変以降、1年半以上が経過し、日系企業の多くは、責任ある投資を果たすべく、困難な現状を受け入れながらも、今、出来ることに傾注し、我慢の日々が続いています。

ミャンマー経済の現状

 2021年2月の政変以降、①新規外国投資の激減、②外国援助の凍結、③サービス収支の悪化等を背景に、ミャンマー経済は低迷を余儀なくされています。暫定政府は、深刻な外貨不足に対応するために、①輸入の抑制、②外貨の強制兌換を含む外貨管理、③民間対外債務(ローン)の支払い停止などを継続しています。日系企業の多くは、これら措置に対応しながら、操業を維持すべく努力を行っているところです。

外部環境の変化

 米中貿易摩擦及びロシアのウクライナ侵略によって顕在化した「民主主義国家対権威主義国家」の二項対立的構図の中、ミャンマーは、国軍による人権問題の改善を迫る欧米諸国との距離を置く一方、ロシア、旧ソ連諸国、中国、インド、タイといった権威主義国家や隣国・中立国との連携強化を推進しています。

 特筆すべきは、ミン・アウン・フライン国軍司令官は9月上旬、プーチン大統領との面談や東方経済フォーラムの参加などを目的に政変後3回目のロシアを訪問している点です。今回の訪問時には、原子力分野の技術開発や鉄道インフラ分野での協力など、経済関係の緊密化に向けた合意を行いました。

 90ヵ国以上が参加した今年の東方経済フォーラムにおいて、同司令官は、“The important role of Myanmarin the food security sector and good opportunities in investment”をテーマに基調講演を行い、食糧の安全保障の観点からもミャンマーの重要性と投資を呼び掛けました。また、小国は大国による米ドル支配の犠牲者として、政府は米ドルから人民元、バーツ、ルピー、ルーブルといった他の通貨決済を推進していく意向を表明しており、早速11月からルーブルとチャットのオンライン決済をスタートさせる予定です。

 海外展開する日系企業も、脱西側諸国の下での市場開拓やこれまでの価値観の変容が求められるようになってきています。

ヤンゴンの今

 このように国難なミャンマーではありますが、最近、ヤンゴンでは小洒落たレストランやバーが相次いでオープンしています。以前は外国人に多く利用されそうな雰囲気のお店でも、今はミャンマーの若者たちで賑わっています。国外流出するミャンマーの若者が多い中、自国に残り、何とかサバイブしていこうとする若者も一定数います。レストランで談笑する彼ら、彼女らの様子を見るにつけ、心の中で「頑張れ」とエールを送りながら眺めることが、最近の好きな時間の過ごし方となっています。

(2022年11月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。