今、現地駐在員が関心を寄せる法務・労務・会計等(後編)
~ JETRO/JCCM主催の一問一答セミナーより~

 ジェトロでは、日本企業の海外ビジネス展開に関する様々なご相談対応・課題解決に向けた各種の支援サービスを提供しています。本稿は、当地日本人駐在員から寄せられた会計・税務に関する質問の回答例を紹介します。

会社負担の駐在員給与の税金

 外国人駐在員の給与に対する個人所得税等の税金の支払いは、会社負担で行われるケースが多いかと思います。その場合の正しい計算方法を知りたいといった問い合わせがあります。
 結論から申し上げますと、会社負担の税金は「手当」と見做され、個人所得税の課税所得となります。給与が会社負担となる場合、一般にグロスアップ方式やタックス・オン・タックス(支払金額に所得税相当額を加算)と呼ばれる方法で課税所得を調整する計算方法を取ります。
 計算方法は、理論的には「(課税所得全体+税額-控除額)×税率(累進課税も考慮)=税額」となります。

法人所得税の源泉徴収

 法人所得税の源泉徴収について、全ての日系企業は毎回支払いの時に源泉徴収しているのか?といった問い合わせがあります。
 源泉徴収税については、租税条約の適用の有無も関連しますが、日本とミャンマーのように租税条約のないところであれば、税率は以下のように整理できます。
・配当の支払い:課税なし
・利息の支払い:居住者に対しては課税なし、非居住者への支払には15%の課税
・ライセンス料の支払い:居住者に対しては10%、非居住者に対しては15%の課税
・物品・サービス購入対価の支払い:居住者に対しては、政府機関等からは2%の課税、その他事業主体からは課税なし、非居住者に対しては2.5%の課税
 
 源泉徴収税は、請求元事業者のミャンマーにおける法人所得税の前納を行った扱いとなり、控除された金額を受け取った法人にとっては、こちらの支払いを行った証明を提出できなければ、実質的に同額を二重に支払うことになってしまいます。このため、請求先事業者が源泉徴収税を支払う際に記入するフォームおよび支払い証明書(いわゆるタックスチャラン)の二つを、確実に回収することが必要になります。
 ODA 契約の場合、源泉徴収税の納税義務は、契約当事者である政府機関になるケースが多く、その場合、政府機関は契約書に基づいて、請求元が免税事業者か否か確認を行った上で、免税事業者でない場合のみ控除して支払うという対応が必要になります。
 請求先が日系企業など非政府機関の場合、既述のとおり居住者法人に対しては源泉徴収なし、非居住者法人に対しては2.5%で源泉徴収税が課せられます。

米ドル契約のチャット払いの適用レートの注意点

 現在、ミャンマーでは米ドルの国内の銀行間送金が制限されており、契約上は米ドル契約であっても、実質チャットでのやりとりになっているかと思います。政府の公定レートと市中のレートが大きく乖離しており、かつ日々変動幅も大きいので、適用レートの相談が寄せられています。
 公定レート以外のレートを用いる場合、会計上は、適用レートが明瞭でなければ、監査人より指摘を受ける可能性があります。双方が合意して契約するのであれば、適当なレートで合意して契約通貨をチャットにすることも可能ですが、米ドルで仕入など行う場合には、為替が乖離していくと負担がかかることから、結局後々調整する可能性が高くなります。
 一方、米ドル建ての契約として残す場合には、逐一為替レートに合意するべく、どのレートを基準にするか、交渉の余地も出てくるかと存じます。
 後者の場合、請求書に契約金額の米ドル建て金額と、合意した為替レートの記載があれば、そちらをもって会計上の資料とすることができますので、一義的にはそのような請求書記載の要請を推奨しています。
 監査に際しては、たとえインボイスの記載が米ドル金額のみであっても、メールなどで合意しているという記録があれば、そちらでも対応は可能です。
 ジェトロでは、こういった各種相談を常時受付けておりますので、最寄りのジェトロ事務所にご相談下さい。

(2022年10月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。