今、現地駐在員が関心を寄せる法務・労務・会計等(中編)
~ JETRO/JCCM主催の一問一答セミナーより~

 ジェトロでは、日本企業の海外ビジネス展開に関する様々なご相談対応・課題解決に向けた各種の支援サービスを提供しています。本稿は、8月号に続き、当地日本人駐在員から寄せられた労務に関する質問の回答例を紹介します。

最低賃金の現状
 現在、ミャンマーの最低賃金は、法律により1日あたり4,800チャット(約350円)となっています。現在の最低賃金は2018年5月に定められており、最低賃金法は2年毎に最低賃金を見直す規定となっております。同法に従えば、既に改定がなされてよい時期ではありますが、当局は2021年12月27日付にて、全国最低賃金委員会が法定最低賃金を1日あたり4,800チャットに据え置く決定をしたと発表しています。当時、1日あたり3,600チャットに引き下げられたとの噂が出回り、その噂を否定しなければならない事情がありました。
 食料品やガソリン等の生活物資の価格上昇が一般市民の生活に深刻な打撃を与えており、また、チャット安が進行している中、最低賃金の見直しがいつあってもおかしくない状況にあります。

ワークシェアリングの可否
 リストラクチャリングの一環として、従業員を解雇せず、ワークシェアリングを行い、実質支払い給与額を下げることは可能かといった質問がありました。答えは「可能」ですが、従業員と合意し、雇用契約書を新たな労働時間に基づき締結し直すことが必要になります。但し、1日あたり4,800チャットの最低賃金を下回ることはできません。

注意すべき労務関連法令
 2019年3月に職場の安全及び健康に関する法律が公布されています。ミャンマーでは従来、工場法に職場の安全等に関する規定が一部あるのみで、工場以外の職場における労働者の安全及び健康に関する一般法が存在しませんでした。同法はこの点に関する基本法となっています。
 また、2019年6月には労働紛争解決法第二次改正が公布されています。労働組織が設置されている場合には、各組織から2名の代表及びこれと同数の使用者代表から構成されなければならないとされていましたが、改正法では、各組織から3名の代表者及びこれと同数の使用者代表から委員を選出する必要があるとされました。また、委員の任期も1年から2年に延長されています。

Casual Leaveとは
 Casual Leave とは、休暇及び休日法上、「予期せぬ事態に関し得られる休暇を意味する」と定義されています。1年で合計6日間の有給の臨時休暇が認められています。但し、臨時休暇1回あたりの取得期間は最大3日間までとなっています。また、他の有給休暇と合わせて取得することは認められない旨規定されています。
 どのような場合に認めるべきかについて具体的なケースについては、法令上は規定されていませんが、一般的には冠婚葬祭等の場合に認められると解されています。
 ジェトロでは、こういった各種相談を常時受付けておりますので、最寄りのジェトロ事務所にご相談下さい。

(2022年9月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。