休眠・撤退にあたって、税務上、気を付けるべきポイント
 昨今の状況により、休眠・撤退を視野に入れている企業も多く見受けられます。会社法上の清算手続きについては、自社で行うというよりも、専門家に依頼して行うことが多いかと思います。並行して税務手続きについても行っていかねばなりません。この手続きが、会社法上の手続きと異なり、大変、時間と労力がかかります。また、最近導入されたTAX AUDITにより、最終の清算申告の承認決定にあたり、細かい遡及が始まっています。

 まず、休眠についてですが、日本とは異なり、休眠制度というものが確立しておりませんので、四半期申告、年度申告共に、通常通り行っていくこととなります。年次決算を行い、監査を受けて、監査報告書も整えておく必要があります。会社法上のDICAの年次申告も必要です。タックスクリアランス時に取締役が税務署に行かなければならない場合などの対策も行っておく必要があるでしょう。

 次に支店の清算についてです。会社法上の支店の閉鎖手続きは非常に簡便で、申請後60日後に自動的に承認がおりることとなっています。しかし、税務においては、残余財産確定の申告書を作成し、監査報告書を整えて、残余財産確定から3か月以内に、清算の税務申告を提出することとなります。

 残余財産確定の過程において、資産の売却等があった場合にはキャピタルゲイン課税の申告も行う必要があります。従業員の方について将来の納税証明の為に、フォーム15を整えて、従業員の方に配布しておくことも大切です。現在、清算申告の申告にかかるタックスクリアランスには、大変時間がかかっています。タックスクリアランスと別に行われるTAX AUDITについても、清算の場合は特に細かい点が指摘されます。タックスクリアランス同様の会計報告の内容に関する調書に加え、契約や株主変更時の印紙の納付は適正に行われていたか、納付期限や申告期限の遅延が無かったか、適正な記帳や証憑の保存ができているかなど、連邦税法、所得税法のみならず、2019年施行のTAX ADMINISTRATION法にも基づき、指摘が行われています。

 現地法人の清算については、会社法上の手続きは、支店より工数が多くなっています。官報および新聞への2回の公告も必要とされています。これについては、会社法上は、支店の場合、必要とされていませんが、実務においては、銀行の閉鎖時、タックスクリアランス時などに求められる例が散見されます。支店においても行っておくことをおすすめします。残余財産の確定から清算税務申告までの流れは支店と同様です。大変時間がかかっています。また、現地法人、支店共に、清算完了の承認書をもらっておくことが必要です。現在は自動的に発行されるものでは無く、納税者側が申請して初めて発行される書類となっているので留意が必要です。

 清算手続きは、登記手続きだけではなく、残余財産確定時にBSをどのようにしておくか、必要な税務手続きはどのように進めるか、TAX AUDIT対策は十分か、残余財産の送金の問題、銀行の閉鎖に関する準備など、総合的に計画を立てて進める必要があります。専門家と相談の上、将来のリスクを考慮しながら進めていくことをおすすめします。

 税務の最終決定まで、非常に長い時間がかかるため、その間に清算人と連絡が取れなくなってしまったというご相談事案もあります。清算手続きについては、しっかり長期的にフォローしてもらえる専門家に依頼するようにしましょう。

(2022年9月号掲載)

執筆者プロフィール

若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。