今、現地駐在員が関心を寄せる法務・労務・会計等(前編)
~ JETRO/JCCM主催の一問一答セミナーより~

 ジェトロでは、日本企業の海外ビジネス展開に関する様々なご相談対応・課題解決に向けた各種の支援サービスを提供しています。7月1日、「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業」の一環として、ミャンマー日本商工会議所(JCCM)と連携し、法務・労務・会計・税務等に関する「一問一答セミナー」を実施しました。

困難な時期だからこその問題意識の共有
 本セミナーは、日頃、皆様が抱えている問題や、今後の懸念事項などを事前にお伺いし、今回は35の事前質問に絞って、ジェトロの専門家(プラットフォームコーディネーター)が回答しました。本セミナーは、他の方の関心事項や困り事を知ることで、新たな気付や、知識の補充を目的としています。本セミナーの講師にあたった専門家は、ミャンマーでの駐在経験やビジネス経験が豊富であられる方ばかりで、非常に頼りになる存在です。
 本稿では、現下の不安定なビジネス環境の中、是非、知識としても知っておいてほしい代表的な法務・労務・会計・税務に関する質問の回答例を紹介します。

取締役の居住要件の遵守
 2022年4月17日以降、国際旅客便の運航が再開されました。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、投資企業管理局(DICA)は2020年10月20日、新会社法における取締役居住者要件の例外措置を発表し、政府による公式な入国再開日までは、居住判定期間に算入しないことを発表しました。ミャンマーでは、株式会社の取締役のうち最低1人または支店の代表者が12カ月間のうち183日以上、ミャンマーに居住することが義務付けられています。
 セミナーでは、DICA による同措置の終了通知が出状されていないものの、4月17日に国際旅客便の運航再開に伴い、同措置は終了した前提で対応すべきとの説明がありました。

チャット記載の契約書へ変更すべきか
 ミャンマーでは、現在、金融機関を通じたドルの第三者向けの国内送金が禁止されております。従って、ドル記載の契約書自体もチャット記載の契約書に切り替えた方がよいかといった質問がありました。
 同質問に対しては、すでに締結されている契約書自体については、必ずしも変更する必要はないが、国内での外貨決済が出来ない以上、チャットで決済する必要があり、その場合には当局に説明の付く公定レート(1ドル=1,850チャット) を用いるのが無難であろうとの見解が示されました。
 一方、契約書をドル建てにすることが禁止されている訳ではないこと申し添えます。

合弁企業のデット・エクイティ・スワップは可能か
 理由は様々かと思いますが、今後、合弁企業のデット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap、債務の株式化)を検討することもあるかと思います。
 想定されるケースでは、合弁相手が株式比率に応じた借り入れの支払いに応じられず、結果、合弁企業の財務諸表上の債務が拡大し、誰がそれを負担するかといったことが挙げられます。ミャンマーにおいても、会社法64条b項に基づき、現金以外の方法による株式発行措置に準じた対応(DES)が可能です。実行する際には、当該ローン(債務)の現在価値の算出、及び株主に対する公正及び合理性の説明等は最低限必要となりましょう。
 こういった各種相談をジェトロでは常時受付けております。最寄りのジェトロ事務所にご相談下さい。

(2022年8月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。