外貨統制が続く事業環境

 2022年6月に入っても、前月同様、外貨流出の抑制に向けた各種の制限措置が継続しています。外貨送金や輸入ライセンス発行の遅延など、事業環境の厳しさが増しています。

新会計年度における2カ月連続の貿易赤字
 6月10日現在、外貨送金の許認可を与える外国為替監督委員会(FEC)や、輸入ライセンスの発行を許可する会議が週2回、ネピドーで開催されています。コロナ禍以前のミャンマーは、主となる輸出産業が脆弱なため、資本財、中間財、消費財共に慢性的な貿易赤字を抱えておりました。その一方で、外国直接投資の流入や旅行収支の黒字などが貿易赤字を補い、外貨準備高は増加傾向にありました。しかし、2020年3月末以降の国際旅客便の着陸禁止措置や新規入国のための査証(ビザ)の発給停止措置などを機に、人の往来や新規外国直接投資の大幅減などにより、外貨収入が閉ざされてしまいました。こうした流れの中で、2021年2月に政変が発生し、現在に至っています。

 そのため、当局としては、債務の不履行(デフォルト)を避けるためにも、輸入代替型の政策や輸入の抑制といった伝統的な手法で、外貨を統制せざるを得ず、特に輸入代金の国際決済を伴う事業者にとってのビジネス環境は厳しさを増しています。そのため、一義的な対応策としては、時間的にかなりの余裕をもった各種の申請手続きや状況の情報収集が必要になっております。

 なお、直近の暑季下においては、ウクライナ戦争の勃発などによる油価の国際的な価格上昇などにより、中間財の輸入金額が増加し、4月は8,038万ドルの赤字、5月は1億1,610万ドルの赤字となりました。このように貿易赤字が続くと、輸入ライセンスの発行にあたっては、当局の方向性が慎重になり、貿易収支の帳尻を合わせるためにも6月以降も許可に時間が掛かることが想定されます。

国内取引はチャット取引に移行
 ミャンマーではドル決済を慣例とするビジネス取引が主流でした。しかし、国内銀行間のドル送金が制限され、また、中央銀行による度重なるチャット取引の要請通達を受け、最近では国内取引をチャット取引に移行するケースが増えてきています。

 6月3日には、中央銀行より日本のメガバンク3行を含むすべての銀行が保有する外貨の5%をチャットに換金するよう指示があり、邦銀の主要顧客である日系企業の保有する外貨が強制兌換される一歩手前まで来ました。しかしながら、6月7日の中央銀行と銀行による会議の場において、口頭ベースであるものの、外資比率10%以上の企業は対象から外すとの方針が示され(6月16日付の議事録にて記載)、一旦、強制兌換は保留されている形となっています。

 このように外貨統制をめぐる動きは2021年4月18日のタイとの国境貿易の各種飲料等の輸入禁止措置を契機に継続的に続いており、日系社会では先行きの不透明感を危惧する声が広がっています。

(2022年7月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。