外貨流出の抑制に向けた各種の制限措置を発動

 2022年5月に入っても、引き続き外貨流出の抑制に向けた各種の制限措置が次々に打ち出されています。4月の購買担当者景気指数(PMI)は、政変以降初めて景気拡大を示す50ポイントを超える一方、貿易収支は8,000万ドルの赤字、中国からの断続的な新規投資など、玉石混交な状態が続いています。

新たな外貨流出の抑制策が発動
 ミャンマー経済界に大きな衝撃が走った4月3日の中央銀行から発出された、海外から取得した外貨の1営業日以内の強制兌換から1カ月以上が経過した5月中旬現在、国内のドル取引が停止されています。ジェトロで言えば、毎月チェックで支払っていたドル払いの事務所の借館料や通信費、レンタカー会社への支払いなどがストップしたままです。日系企業の多くも同じような状況となっており、早期の取引再開を待ち望んでいるところです。

 こうした中、商業省は5月1日から一般食品、飼料、染料、汎用化学品、機械・装置、発電機、電子機器・予備部品などの1,131品目に輸入ライセンスの取得を義務付けています。ただ、実務の現場では、輸入ライセンスの取得には時間が掛かり、納期の遵守や生産計画が立てづらくなっています。ジェトロが当局に聞いたところでは、①農業、畜産、②石油、食用油、③医療、④工業用原材料、⑤消費財といった順番に輸入ライセンスの発行のプライオリティーがあるようです。そのため、早期に発行を望む企業はネピドーでの個別交渉や所管省庁の推薦状などが必要となっています。

 一方、輸出企業に対しては、過去の輸出インボイス金額の90日以内の着金確認や受取金額の差異を確認しており、不備のあった会社の輸出業者登録の抹消を進めています。輸出代金の着金期限はこれまで90日以内でありましたが、5月6日付の新たな通達により日本を含むアジアからの着金期限は45日以内に短縮されています。今後、着金確認は厳しくなる見通しのため、これまで以上に厳格な輸出代金の決済証明が求められますので、注意願います。

4月の貿易・投資動向
 今年4月から新たな会計年度(4月~3月期)が導入され、貿易統計も4月から2022年度としてスタートしています。2022年4月の輸出は、前年同月比12.6%増の10億8,051万ドル、輸入は同9.2%増の11億6,089万ドルと、貿易収支は8,038万ドルの赤字となりました。現在、貿易収支の均衡化政策を採っているため、5月以降は、輸入の抑制が働くと見てよいかと思います。4月は資本財の輸入が同11.9%減となった一方、縫製業等のCMP の輸入原材料は同3.5倍増となりました。

 こうした中、ミャンマー最大の貿易相手国である中国は5月1日から、ミャンマーに対してRCEP 協定税率を適用するなど、両国の交易関係の拡大に向けた動きをしています。

 4月の外国直接投資については、中国から3件、香港から1件の合計59億9,700万ドルがミャンマー投資委員会(MIC)の認可を受けており、政変前と比べ絶対数は少ないものの、中国からの新規投資が断続的に続いています。

(2022年6月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。