外貨の強制両替等を定めた中央銀行通知について

1. 外貨の強制両替、海外送金の許可制を定めた中央銀行通知2022年第12号

2022年4月3日に、以下の内容を定めた中央銀行通知(以下、「本通知」といいます。)が発せられています。

(1)外貨収入の1営業日以内のMMKへの両替の義務付け
外貨収入については、外貨取扱銀行(AD Licensed Bank)に預け入れ、1営業日以内にミャンマーチャット(MMK)に両替しなくてはならない(第2条)としており、その免除については、別途定めるとされています(第3条)。その両替レートについては、1USD =1,850MMKと定められており、変更がある場合は中央銀行が指示するとされています(同日中央銀行指令第4号(b))。

(2) 既存の外貨預金口座の外貨にも適用
各種外貨建て口座に入金されている外貨(本通知前に入金されたもの)についても、同様に両替をする必要があるとしており(第5条)、詳細については、後日公表されるとしています(同中央銀行指令 (d))。


(3) 海外送金の外為監督委員会による許可制の採用
海外への送金については、外為監督委員会(Foreign Exchange Supervisory Committee)を得て、外貨取扱銀行においてのみ行うことができるとされています(第4条)。

(4) 違反の場合の法的措置
以上の規制に違反した場合、外国為替管理法による法的措置が採られると規定しており(第8条)、罰則については、1年以下の禁固若しくは罰金、又はその併科とされています(2021年10月改正外国為替管理法第41条及び第44条a)。

(5)発効時期等
輸出代金の30日以内の両替を義務付けた通知(Notifi cation No.35/2021)は本通知で撤回され(第6条)、本通知は即日(4月3日)に発効するとしています。

2.本通知の内容を具体化する中央銀行指令(Directive)の発出

(1) ミャンマー政府機関及びミャンマー政府省庁への不適用
4月5日に発せられた中央銀行指令第5号では、ミャンマー政府機関及びミャンマー政府省庁については、本通知の対象とならないとされています。

(2)受領した外貨収入の種類による具体的手続
本通知の定める外貨の強制両替の具体的手続については、2022年4月5日中央銀行指令第6号第2条が以下の通り定めています。

(3)海外送金についての外為監督委員会による審査
国内居住者から海外への送金は、外為監督委員会の許可によってのみ行うことができ、以下のものを含む海外送金は、外為監督委員会による審査が行われるとしています(同中央銀行指令第3条)。
(a)輸入の支払(前払を含む)
(b)サービスの支払その他の支出
(c)外国からの投資の分配及び資本の払戻
(d)海外への投資の送金
(e)海外からのローン及び利息の支払
(f) 海外投資規則第27条(foreign exchange dealerによる少額の海外送金(旅費、医療費、教育費その他))所定の支出の送金

3.ミャンマービジネスへの影響

本通知のミャンマーにおけるビジネスへの影響は、甚大であると言わざるを得ません。
本通知で明確になっていない争点としては、以下のものが挙げられます。
①強制両替の免除事由(上記(1(1)))については、どの程度のものが認められるか。
②上記(1(2))の「本通知前に入金されたもの」(本通知第4条)の解釈に関し、一定期間以上前に入金されたものについては、強制両替の対象から除外されるか。

上記免除事由について、日本企業等一般への適用を求める在ミャンマー日本大使館からの申し入れ等もなされており、今後のミャンマー中央銀行の動向を注視する必要があります。
このような状況に照らし、日本などのミャンマー国外からミャンマーへの外貨送金は、可能な限り避けることが望ましいといえます。

※上記内容は、2022年4月20日現在取得可能な情報に基づき作成したものであり、その後の状況の変化、新たな情報の判明等により内容を修正させて頂く可能性があります。

(2022年5月号掲載)

甲斐史朗(かい ふみあき)
TMI総合法律事務所パートナー(ミャンマー担当)。日本国弁護士。早稲田大学政治経済学部政治学科、ロンドン大学LLM卒業。2015年1月よりヤンゴンオフィス駐在。