外貨の強制兌換と今後の経済活動

 2022年4月3日、中央銀行から、国内居住者が海外から取得した外国通貨を1営業日以内に現地通貨チャットへの兌換を義務付ける通達が突如発出されました。
 また、輸入代金や配当の支払い等のための海外送金については、毎回当局の許可をとることが義務付けられました。資本移動の自由を著しく制限する措置で、日系社会のみならず、ミャンマー経済界でも大きな衝撃が走りました。

外貨不足のための対応か
 今回の措置に対する当局からの明確な目的が表明されない中、4月6日付のイラワジ・ニュースでは、金融専門家の分析を引用する形で、①ドル不足への対応、②少なくとも100億ドルの対外債務支払いのための外貨の確保、③石油、ガス等の輸入のための原資の確保などを理由に挙げています。

 本稿でも度々、外貨流出を抑えるために、貿易収支の均衡化政策、輸出企業が取得した外貨の30日以内のチャットへの強制兌換などといった措置を紹介してきましたが、今回の措置は、内資・外資を問わず、外貨保有者の資産をチャットへ転換し、外貨の接収に躍起となっていることが伺えます。

 軍政下、外貨準備高の残高統計が発表されているわけではないので、正確な数字を知る由もありませんが、相当、厳しい状況に置かれていることが推察されます。

 短期的には、外貨の接収により、当局や中央銀行が使える外貨が増えるかもしれませんが、資本移動の自由を制限する行為は、ビジネス・マインドの停滞や新規投資の足枷となり、国内経済は益々悪化し、ミャンマーの国民生活にも甚大な影響を及ぼします。本通達の早急な撤廃を求めます。

国際商業便の運航再開へ
 ミャンマーでは、新型コロナウイルスの感染予防のために2020年3月末から外国人の入国禁止、国際商業便の着陸禁止、入国ビザの新規発給停止といった措置が採られていました。今回、約2年ぶりに4月1日からオンラインによるビジネス用e-Visa の発給再開や、4月17日からは国際商業便の着陸が許可されます。

 これを受け、これまで日本からはミャンマー人のための救援便に、座席が空いた場合、日本人の搭乗枠が決まり、ミャンマー当局の許可を得た人のみ特別にミャンマーへの渡航が可能でした。そのため、ミャンマーに来たくても来れない人が多発し、常に搭乗のための順番待ちとなっていました。

 今般、5月13日の便を以て、ANA様は運航休止に入ることが発表されました。ヤンゴンから日本に帰国の際に、毎回ANA 様の機内に入ると、ほっとした気持ちになったことを思い出します。コロナ禍、政変下において、これまで人道的かつ日本との移動手段を確保するために、大変運航環境が厳しい中、多大なる尽力をいただいたことに日本国民の一人として心より感謝申し上げる次第です。

 4月13日からはヤンゴンと成田を結ぶミャンマー国際航空(MAI)がチャーター便の運航を予定しています。バンコク等、第三国経由での渡航を含め、今後、ミャンマーと日本との往来の選択肢が増えますので、少しは安心されている方が多いのではないでしょうか。

1米ドル=1,850Ksの固定レートへ

(2022年5月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。