新年度スタート。駐在員給与の負担割合について

 2022年は、再び4月~3月の事業年度制度がスタートします。4月は、新年度の始まりとなります。この時期は、新たに赴任する方も増える時期です。この時期によく聞かれるのが、日本国の税務上のポイントである駐在員の方の所得負担割合について。おさらいしてみましょう。
 在緬駐在員の日本とミャンマーにおける給料負担割合については、①支払方法と、②負担割合という2つの見方があります。①については、お給料を日本で振込支払しようが、ミャンマーで現金で支払おうが、そこは判断ポイントではありません。

 大切なのは、②について。日本の親会社とミャンマーの子会社との間で、その駐在員のお給料について、どちらがどれくらい負担するのかを決める事が重要なのです。

 海外出向者の給料について、グループ企業である子会社に出向しているのだから、日本本社が給料を負担してもいいだろうという考えは日本の税法では通用しません。基本的に、海外子法人と親会社とは、別法人です。出向者にかかる費用は、出向先に負担してもらうというのが基本的な考え方です。ただし、税務上、通達(法基通9-2-47)で認められた給与格差の補填部分等については、日本親会社側で損金算入が認められています。しかしながら、具体的にどこまでを日本側が負担してよいといった明確な規定がなく、個別に判断がなされるために、注意が必要となってきます。

 親会社が子会社に代わって負担する格差補てんの為の給与の取り扱いについては、日本側では法人税法基本通達9-2-47に定められています。通達において、損金算入できる2つの事例として①出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため、出向元法人が当該出向者に対して支給する賞与の額 ②出向先法人が海外にあるため、出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額、があげられています。

 ①について格差補てんの対象として負担すべき額を認識するのは、比較的容易なのですが、②については、その内容を明らかにしていない為、その運用にあたって見解の相違が生じる場合があります。いわゆる留守宅手当というのは、海外に赴任する出向者の家族が日本に残る場合のその生活費等を主とします。

 上記以外でも、ハードシップ手当、現地教育手当など海外子会社が通常負担しないものを超える部分については、出向元である親会社が負担する場合が多く見受けられます。

 出向者の給料については、単純に本社と子会社で何%負担するという取り決めをしていれば良いということではありません。重要なのは、出向先が負担すべき金額を負担しているかどうかということです。つまり、出向者と同等の職務、能力を持つミャンマー現地採用者の相場を鑑みて、ミャンマーの出向先が相当の額をきちんと負担しているのか、という点に留意すべきなのです。また、海外出向者について、給与のみならず、旅費その他の費用等の取り扱いについても、海外出向規程などで、しっかりと負担の根拠を定めておいた方が良いでしょう。

 給与格差の補てんについて、合理的な事由なく出向元が負担していた場合には、寄付金課税の適用を受ける可能性があります。出向の格差補てん金自体について、移転価格税制の対象となることは考えにくいですが、技術やノウハウを持った社員を出向させる場合に、無形資産等の移転があったとして、移転価格税制の適用対象取引を認識すべき場合もあるので注意が必要です。

 上記は、日本の国税の対応方法ですが、もちろんミャンマー側においては、居住者、非居住者それぞれにかかる課税対象所得に対する課税について考えていかなければなりません。滞在期間、仕事内容によって課税対象所得は異なります。コロナ禍以降、ミャンマー駐在であっても日本勤務という事例も増えています。日本とミャンマーの間には租税条約が無いため、二重課税となる場合も散見されます。専門家のアドバイスを受けて、正しく対応していきましょう。

(2022年4月号掲載)

執筆者プロフィール

若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。