欧州商工会議所のロビイング
~ミャンマー縫製業の発展を目指す~

縫製業を擁護する欧州商工会議所

 在ミャンマー欧州商工会議所は、各産業のアドボカシー(擁護)・グループを有しており、とりわけ縫製業のアドボカシー・グループは内外に対して活発なロビイング活動を行っています。その背景には、ミャンマーの主力産業である縫製業の最大の輸出先がEUであることや、縫製業が多くの貧困女性の雇用の受け皿となっていることがあります。つまり、EUへの輸出減少は、貧困女性の増加を招く構造となっており、業界団体としても人道的な観点から縫製業を擁護・発展させていく必要があります。

 2022年1月24日に発表された“Myanmar Garment Sector FACTSHEET(ミャンマー衣料品産業ファクトシート)”と題する報告書では、各種調査により判明した労働者を取り巻く環境や、国家財政との関係、国軍と縫製業との関係といった項目について分析しています。
https://eurocham-myanmar.org/2022/01/25/myanmar-garmentsector-factsheet/

 報告書の結論部分では、①生産やロジスティクス等を含む広義の縫製業は、国軍系の縫製企業(2社)、港湾施設、工業団地の関与がなくても成立し、②輸出産品が国軍との取引関係がない旨の説明責任を果たし(EUへの輸出品には国軍系企業との関与はないと報告)、③縫製業は特に女性にとって重要な正規雇用の場となっており、継続的な擁護が必要な点を挙げています。

 欧州商工会議所は、こうしたスタンスを内外に発信し、ミャンマー縫製業の発展に尽力していく考えを表明しています。

 解雇により一家の生活が支えられず、再び貧困層になってしまう現実を鑑み、雇用の維持は極めて重要であることを改めて報告書は教えてくれています。

 コロナ禍におけるEU市場の縮小といった要因があるものの、一時落ち込んだEU向けの輸出オーダーは戻ってきているとの報告もあります(ミャンマー縫製業協会)。また、EUブランドの委託生産を行う日系縫製メーカーでも、今でも普通にEU向けのオーダーは入ってくるとのことです。こうした報告を伺い、嬉しく感じます。

経済活動は回復基調も、オミクロン株の感染拡大が懸念

 直近1月の景況感の先行指標となる購買担当者景気指数(PMI)は、48.5ポイントと前年12月の49ポイントより1.5ポイント減少しています。減少の主因は、政情不安とオミクロン株の感染者の増加が挙げられています。特にオミクロン株の市中感染が1月28日付で、ザガイン州で68人の感染者が確認されて以来、徐々に感染者が増加しています。昨年6月末のデルタ株とされる新型コロナウイルスの第3波が到来した際には、7月のPMI は33.5ポイントまで減少しました。

 2月上旬時点では、公休日制定の動きや医療崩壊などは発生しておりませんが、当地日系社会でも徐々にオミクロン株の感染拡大に対する警戒感が高まっています。

(2022年3月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。