政変後も7割近くの進出日系企業は撤退・縮小せず
~ジェトロ海外進出日系企業実態調査~

 2021年2月1日に発生した国軍による権力掌握から、1年が経過しました。街は徐々に落ち着きを取り戻し、猛威を振るった新型コロナウイルス第3波が収束した2021年10月頃からは企業の生産活動も回復し、ヤンゴン市内の朝夕にはクルマによる渋滞が発生しています。

政変後の悲観時期に調査を実施

 政変後の1年を振り返りますと、政変直後の2~3月は、国軍に対する不服従運動や一部地域での衝突などが発生し、多くの犠牲者を出しました。ミャンマーの将来に対する悲観論が内外で広がりました。さらに追い打ちをかけたのが6月末以降、デルタ株の蔓延と見られる新型コロナウイルス第3波の到来でありました。在留邦人の多くも、一時退避や日本政府による在留邦人向けワクチン接種プログラムを受けに日本に一時帰国する動きが加速しました。その時期の在留邦人社会においても、自身や駐在員の生命に直接係わるため、非常に悲観論が広がっていたのではないかと思います。
 そうした最悪かつ誰もが悲観的な時期に、大変恐縮ながらも毎年恒例の「ジェトロ海外進出日系企業実態調査」を8月から9月にかけて実施しました。ミャンマーからは180社から回答(有効回答率36.5%)を得ました。
 結論から言えば、政変後も7割近くの進出日系企業は撤退・縮小せず、ミャンマーでの事業継続を考えている結果となりました。ミャンマーにおける今後1~2年の事業展開については、「拡大」と回答した企業の割合が13.5%、「現状維持」が52.3%、「縮小」が27.5%、「第3国(地域)へ移転・撤退」は6.7%となりました。国内市場やコロナ禍の影響による外需が低迷している中、「縮小」は仕方ないことかと思います。ただ、1年前の同質問項目では、「拡大」と回答した企業の割合が47.3%、「現状維持」が42.3%、「縮小」が10.0%、「第3国(地域)への移転・撤退」は0.5%という結果となっており、実はミャンマーは「拡大」の割合がASEAN 諸国の中でトップ国であったことを考えると、非常に残念な気持ちになります。
 調査は詳細は、下記のURL からご高覧願います。https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/01/6e5157e362606548.html

回復する企業の生産活動

 本稿でも度々、紹介している景況感を示す先行指標として、購買担当者景気指数(PMI)があります。ミャンマーの同指数を見ると、7月の数値(33.5ポイント)を底に8月以降、徐々に回復傾向が見られ、12月には過去16カ月間の最高値である49.0ポイントまで上昇しました。景気感拡大の節目となる50ポイントまでもう一息です。調査を実施しているIHSMarkit によれば、現時点での2022年の生産高(予測値)は拡大するとしています。
 2022年年初に心配事を挙げれば、切りがありませんが、周辺国で蔓延し出したオミクロン株の感染拡大や、国際社会での孤立化といった懸念事項が最小限に留まり、既述のASEAN一の「事業の拡大国・ミャンマー」に早く戻ることを願っているところです。

早朝、散歩を楽しむ市民たち(2021年12月、筆者撮影)

(2022年1月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。