2020/2021年度の貿易・投資動向
~対日貿易は回復の兆し~

 2020/2021会計年度(20年10月~21年9月期)の貿易・投資統計が発表されました。貿易及びミャンマー投資委員会(MIC)認可の対内直接投資額はいずれも前年度比およそ2割の減少となりました。

国難が続いた2020年度
 2020/2021年度を振り返ると、1年を通じて国難が続きました。2020年11月には総選挙が行われ、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝し、同政権が継続されると思いきや、2月1日、総選挙の不正等を理由に国軍が権力を掌握、その後、多くの国民の命が犠牲となり、国際世論もミャンマーに対して非常に厳しい目が向けられるようになりました。4月の大型連休以降、徐々に経済活動は再開しつつも、現金預金の引き出し制限など金融不安が発生。連日、ATM の前には長蛇の列が出来ていたのはまだよくて、今ではATM から現金の引き出しすら出来なくなっています。

 さらに6月末からは新型コロナウィルスの第3波が到来し、在留邦人を含む大勢の方の命が奪われました。

 そうした国難の中、貿易については、輸出が前年度比15.6%減の149億ドル、輸入が同23.1%減の147億ドルとなりました。商品別の輸出動向をみると、現時点では8月末までの統計しか発表されておりませんが、農産物が前年を大きく上回り、縫製品を中心とする製造品は落ち込んでいます。

 また、対日貿易を日本の貿易統計からみると、同期の輸入は29.3%減の1,071億円、輸出は38.8%減の432億円となりました。コロナ禍における日本国内のアパレル製品に対する需要の低迷やミャンマーの混乱期においても、日本へは主力の縫製品・履物(対日輸出の約9割を占める)の輸出が何とか維持されたことが伺えます。政変下、コロナ禍においても、日系縫製業の方々は雇用の維持や納期への対応などに尽力し、多くの工場は操業を止めずに、生産活動を維持したことに敬意を表したいと思います。縫製業で失業した女性ワーカーが止む無く性産業に転換せざるを得ないといった新聞報道や報告書などもあり、日系企業の雇用の維持に対する信念は、人権侵害を避けるためにも非常に重要な社会的責任を果たしていると思います。

 なお、月次の日本の輸入動向をみると、7月は56億円でしたが、8月は99億円、9月は98億円と回復傾向にあることが分かります。


政変以降の投資認可
件数は10件

 MIC 認可の対内直接投資額は、前年度比22.3%減の38億ドルとなりました。金額的にみると、過去にも大型プロジェクトが認可された翌年の認可額が減少することもあり22.3%減が多いのか少ないかの判断がありますが、認可件数をみると、2019年度の245件に対して2020年度は48件に留まっています。特に2月1日の政変以降は10件のみの認可となっています。

 政変による経済混乱や新型コロナウィルスの感染拡大、さらには外国人の入国禁止措置などは新規投資マインドの足枷となっています。早くミャンマー国民が仕事に困らず、1~2年前のような笑顔が戻ってくることを切に願う今日この頃です。

(2021年12月号掲載)

田中一史(たなか かずふみ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)ヤンゴン事務所長。主にアジア経済の調査や企業の海外展開支援業務を担当。海外勤務は、マニラ事務所調査ダイレクター、サンフランシスコ事務所北米広域調査員、バンコク事務所次長を歴任。2017 年12 月より現職。