今月のKEY PERSON

<2020年5月号>Yangon Stock Exchange 原田政治 取締役

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保険市場に続き、証券市場も規制緩和が進むミャンマー。
ついに外国人による購入が可能となり、海外投資家の注目が集まるのは必至。
とはいえ、まだまだ現状の課題は山積しており、今後の展開について、ヤンゴン証券取引所の取締役である原田氏に話を聞いた。

外 国人による株式購入が実現 証券市場をサポートするYSX

ミャンマー証券市場を支援する大和証券グループ

 ついに外国人による株式購入が可能となったミャンマー。2019年7月に認可が下りていたものの、具体的な購入方法などは示されず、ようやく実現に至った形。これに尽力していたのがヤンゴン証券取引所、英名Yangon Stock Exchange Joint-Venture Co,. Ltd.(YSX)であり、日緬による合弁会社である。
 YSXは1993年に大和総研とミャンマー政府による証券市場育成の覚書締結に端を発し、96年大和総研とミャンマー経済銀行の合弁でミャンマー初の証券取引センター(MSEC)を設立、2012年にはミャンマー中央銀行、日本取引所グループ(JPX。当時は東京証券取引所)が参画し、14年に財務省管轄のミャンマー証券取引委員会(SECM)が設立。同年にミャンマー経済銀行(資本金51%)、大和総研(同30.25%)、日本取引所グループ(同18.75%)によってYSXが立ち上がり、15年に開所式、16年3月より第1号となるFMIが上場、正式に株式取引が開始された。2020年3月現在、上場企業数は5社で、近々1社の上場が予定され、6社となる。
 大和証券グループが果たす役割は重く、現在、日本の金融庁及びJPXとともに株式市場の拡大に向けた施策をミャンマーの計画財務工業省に提案・実施の支援を行い、ミャンマーが主体的に株式市場を運営できるようなサポート体制を採っている。
 ようやく外国人が株を購入できるようになったといっても、まだまだ課題は山積。YSXの取締役の一人として大和総研から派遣されている原田政治氏は、今後の課題として「上場企業数の増加、外国人を含めた投資家へのさらなる解放、公開登録市場の設立」などを挙げる。そもそも上場企業数がわずか5社という現状からもわかるように、株式公開での資金調達というマインドがまだまだミャンマーで育っていないため、メリットの説明から始めなければならない。そのためJICA協力の下、YSX管轄のSpecial Task Force(STF)を立ち上げ、積極的にミャンマー企業に対し上場を促し、すでに6社が上場の意思決定をしている。

 上場企業の増加とともに不可欠なのが、投資家を増やすこと。いくら上場企業が増えても投資家が増えなければ、上場メリットはなく、結果的に市場の成長も止まってしまう。そのための施策が前述した外国人投資家による株式購入であり、外国人の持ち株比率の上限35%までが可能。

証券、金融市場の拡大が国の経済発展につながる

 購入に際してのポイントを簡単に説明すると、まずはMSEC、CB、AYAなどの証券会社に行き、口座開設を申請する。取引用の銀行口座開設のための招待状を発行してもらい、その後、銀行で専用口座を開き、再度、証券会社へ行き、口座開設後に株式の購入が可能となる。ただ、現状は上場企業5社のうちFMIなど3社のみが購入可能で、TMHも近々購入できる予定となっている。詳細は、P45のMSECの広告を参照して問い合わせてほしい。「まったくゼロからインフラを全部作ってきましたので苦労は多かったです。幸い、取引所の業務の根幹を担うシステムやデータセンターを大和総研グループのDMS、DIR-ACE Technologyが手がけたことでスムーズに運びました。また、外国人の株式購入においては、丸山大使をはじめ大使館や日本の金融庁から全面的にバックアップをしていただき、ミャンマー日本商工会議所(JCCM)にも多大なご協力をしていただきました。非常に感謝をしております」と原田氏。

 今後は、未上場で公募を行っている企業を新設する公開登録市場に移行させることで、投資家の保護や市場活性化を視野に入れる。ちなみにすでに上場済みのTMHという通信インフラ企業は、ミャンマーで初となるIPOを実施し、資金調達に成功した。「資金調達をしたい中小企業はたくさんあります。日本のマザーズのような新興企業向けの市場が必要であり、JPXとともにミャンマー政府に提案をしたばかりです」。

 原田氏が理想に掲げるのは、証券のみならず、銀行、保険を含めた金融全体の発展。経済成長において金融事業の先進化は不可欠であり、資金調達によってもたらされるものは雇用や売り上げの増加、そして国からすると納税の拡大といった明確なプロフィットにつながっていく。また、資本市場が発展しなければ、国内外の資金はミャンマー以外で運用されることとなり、ミャンマー国内産業の成長に必要な資金は供給されないばかりか保険市場の発展にも影響を及ぼす。キャピタルマーケットの形成は、企業の資金調達だけではなく、富の再分配を通じた国民生活の向上にも重要な役割を担うものである。

 「ミャンマーは大きく成長が見込める国です。我々はキャピタルマーケットというインフラを着実に、かつスピードを緩めず推進していきます。そのためにエクイティのみではなく、金融市場の整備にも傾注していきたいです」。

原田 政治[Harada Masaharu]

Profile
1963年、愛知県豊田市出身。静岡大学卒業後、1986年に大和証券に入社し、業務及びシステム全般の企画に関わる。
95年、海外初駐在はシンガポール。2017年、大和総研に異動しミャンマーに駐在。10月よりYangon Stock Exchangeの取締役に就任。