今月のKEY PERSON

<2020年4月号>メトログループ 川崎 孝 代表取締役

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書店から事業をスタートさせたメトログループ。現在、書店4店舗、ソフトウェア販売会社、専門学校などを運営し、2014年にミャンマー進出。オフショア開発と日本語とITの専門学校を立ち上げ、優秀なミャンマー人を日本に送り出している。本社の川崎社長に未来への展望などを聞いた。

“ 卒業したら即戦力”が教育方針 日本語とITの専門学校を運営

これまでなかった書店の在庫管理システムを開発

 1959年、長崎で小さな書店から事業を開始したメトログループ。「メトロ書店」は現在西日本を中心に4店舗を展開し、さらに日本全国の書店に在庫管理システムを販売する「メトロコンピュータサービス」、エンジニア育成のための専門学校「メトロITビジネスカレッジ」などを運営してきた。ミャンマーではオフショア開発を行う「Metro Computer Myanmar」と日本語とITの専門学校「Metro IT&Japanese Language Center」を経営し、昨年創業60年を迎え、新たなステージへと舵を切る。同社では「常に変化と独自性を求める」という経営理念を持ち、着実に成長を遂げてきた。

 日本国内の売り上げは約23億円で、書店の売り上げが18億円と出版不況ながらも健闘。現社長の川崎氏が創業者である父の会社に入社した1970年当時こそ出版界は活況を呈し、大型書店が次々とオープンする時代。大手書店と張り合うにはどうすればいいかと必死で模索するなか、それまで曖昧だった在庫管理や販促をコンピューターで一元管理するシステムの発案。10年後、川崎社長は独学で専門書を読み漁り、自らプログラミングをし、独自の書店用在庫管理システム“メトロシステム”の完成に至った。川崎社長は「我々が地方で400坪の書店を経営し続けてこられたのは、このシステムを活用できたからです」と振り返る。全国の書店に同システムを販売し保守管理も行い、地方書店の事業を支える一助になるまでに成長。2000年代に入ってから書籍が売れなくなってきても、メトロシステムの安定した売上が同社を支えてきた。「書店は薄利多売であり、同じことをやっていてもダメになると考えていました」と川崎社長。常に生き残るためには時代の流れを読むことが不可欠であり、同社では次の一手として、2007年に長崎でITエンジニアを育成する専門学校「メトロITビジネスカレッジ」を設立。“卒業したら即戦力”をキーワードに、自社の社員としてもこれまで複数名を採用してきた。

冬の時代を経験しミャンマーに舵切り

 2008年のリーマンショックの後は、日本の少子高齢化社会の波も相まって危機感を覚えたという川崎社長が考えたのが人材の重要性。「長崎は日本の中でも少子高齢化率が高い県で、会社が生き残るためには何か新しいことをやらなければと考えていました」。当時、人手が足りなくて専門学校にも人が集まらないという冬の時代を経験し、一方で自身がITにより事業を活性化してきたという自負もあり、継続してIT事業の必要性を認識していた。

 2013年、同社オリジナルの事業で海外での勝負をしたかったという川崎社長は、人材獲得やオフショアを行うためにアジア各地を視察旅行し、たどり着いたのがミャンマーだった。同業者でもあるGICが主催する「ジョブフェア」に参加したことがきっかけで、ビジネスの糸口が見えたという川崎社長。ジョブフェアに参加した若い学生を自社人材として採用を即決。川崎社長は「ITの知識もあり、性格は真面目で優秀でしたので、すぐに決めてしまいました」と当時の興奮を話す。

 2014年にヤンゴンでソフトウェア開発の「Metoro Computer Myanmar」を立ち上げ。主にオフショア開発を行い、日本の企業にシステムを販売していった。その1年後には、ミャンマーの若者に日本語とITを教える専門学校「Metro IT&Japanese Language Center」を開始し、わずか5年でヤンゴンとマンダレーに拠点を4校構え、教職員数約80名、生徒数1000人超えまでに急成長させた。ミャンマーで比較的早い期間に事業成長できた背景には、長崎での専門学校経営という教育体制があり、同地でも“卒業したら即戦力”を教育方針として、日本と同品質の教育を施している。

 長崎から毎月来緬している川崎社長はヤンゴンやマンダレーの学校にも赴き、講師や生徒とのコミュニケーションを欠かさない。設立から5年、川崎社長は「学生数も毎年増え、授業のレベルも上がっていますし、講師も生徒のレベルも上がってきています。自信を持って日本の企業様に紹介できる」と胸を張る。

 2年間の徹底した教育により、知識はもちろんのこと、日本の職場に順応できるよう商習慣なども学生たちに指導してきた。同校の卒業生が日緬の成長に寄与する日はそう遠くない。

川崎 孝[Kawasaki Takashi]

Profile
1946年、福岡県生まれ。学習院大学卒業後、川崎興産に入社しメトロ書店の運営に携わる。書店向け在庫管理システム“メトロシステム”を開発し、同時に1982年メトロコンピューターサービスを設立。1992年、川崎興産社長に就任、現在に至る。