今月のKEY PERSON

<2020年1月号>Kubota Corporation, Yangon Branch 大森 寛General Manager

バックナンバーはコチラ

1953年から続くミャンマーとの関係。農業、水という分野において、長らくこの地に貢献してきた。
今もなお解消されていない多くの課題を解決すべく、Kubotaは奔走する。
水セクターの責任者である大森GMに話を聞いた。

130年の歴史を誇るグローバル企業 人々の生活を支えるインフラで貢献

売り上げの約7割が海外
「食料・水・環境」が根幹

 1890年創業、その歴史は130年を誇り、2018年の売り上げは1.8兆円で、約7割が海外での売り上げとなっているグローバル企業。スタッフ数はグループ連結で4万202名を抱える。1890年代、日本国内初の水道管の量産化に成功。1923年、農工用国産発動機を発売し、60年には国産初の稲作用乗用トラクタを開発、農業の機械化を推進し、日本の経済発展を後押しした。

 ロゴに配される「For Earth, For Life」という言葉に象徴されるように「美しい地球環境を守りながら、人々の豊かな暮らしを支えていく」という思いから「食料・水・環境」の3つの関わる事業運営が根幹を占めている。

 ミャンマーとの関わりは深く、1953年に同社は耕運機の輸出を開始し、政府が推し進める工業化プロジェクトのために耕運機の国内生産をサポート。55年にはポンプを輸出、57年に灌漑用エンジンポンプセットが戦後賠償品目に指定され、同社から技術員を派遣しアフターサービスも開始。当時、同社のポンプはミャンマー全体の90%を占めるに至った。

 その後も関係は続き、62年に同社は政府と技術提携契約を締結、エンジン・ポンプの生産工場「シンデ製造所」を建設。78年には鋳物工場の建設を受注し一貫指導した。97年に同工場リハビリのため、資材の供与と技術指導を無償で提供。2013年には政府開発援助(ODA)でトラクタ25台、14年には93台を納入し、実に長きにわたり濃密な関係を構築してきた。

 現在、この国での事業の柱は農機セクターと水セクター。2012年、同社は水セクターとしてのヤンゴン営業所を設立し、農機においてはクボタミャンマーとして15年に立ち上げ。今回話を聞いたのは、水セクターでの責任者である大森寛ゼネラルマネージャー。

基準が定まらない水の現実
高い技術力による一括提案

 水セクターは主に3つに分けて事業を展開している。1つ目がインフラ整備。主に政府開発援助(ODA)であり、ヤンゴン都市圏上水整備事業と呼ばれるプロジェクトを実施している。ヤンゴン市内では水道普及率はわずか約4割弱※であり、浄水処理が不十分な状態で当然飲料用には適していない。また、施設の老朽化が進み、漏水率が約5割※という驚きの数字となっている。当事業では送水ポンプ場、ダクタイル鋳鉄管を利用したパイプラインを建設し、ティラワ経済特区(SEZ)及び市内の7区、8区に安定して水を供給することが目的で、完成も間近だという。

 2つ目は民間投資によるインフラ開発。代表的なプロジェクトがティラワSEZでの案件で、同社では取水・給水設備、浄水場、下水処理施設を行った。「弊社が一括してパッケージで提案しました」と大森GM。同社は数多くの自社製品単体の品質の高さも特筆しているが、水道事業においては川上から川下まで提案できることが強みとなっている。

 そして3つ目は民間開発。そもそもこの国では浄水、下水処理場が少なく、建物単位で設備を用意しなければならない実情がある。現在もあらゆる場所で建設が進むショッピングモール、ホテル、製造工場などが対象であり、宿泊施設、レストラン、製造ラインなどで浄水設備は必須。排水処理や再利用など同社の高い技術力はすでに広く知られ、多くの実績も有している。ちなみに大森GMが表紙の写真で持っている製品が、膜の微細孔を利用して活性汚泥と処理水とを分離するための膜ろ過フィルター。排水再利用やコンパクトな設備というメリットを生かし、新興国でも導入しやすいという。

 ミャンマーにおいては引く手数多のようにもみえるが、大森GMは決してそうではないという。「弊社製品は品質だけでなくコストも高くなります。また、この国には水環境分野の環境基準というものがありません。基準が定められなければ、延々と不衛生な水を流す状況が続き、根本的な解決にはなりません。そうした基準が定められ、水環境対策が必要なコストと認識されたとき、我々のビジネスも別のステージに上がることができます」。

 今後の展開については、上記の3つの事業での拡販を視野に入れながら、人材育成にも注力していきたいとしている。この国で継続的な事業展開を進めるためには、ローカル技術者の育成も不可欠だからだ。「これから5年が勝負だとみています。政府開発援助が増え、ティラワSEZが拡張され、民間工場が増えれば、自ずと浄水、排水の問題も出てきます。高度な製造ラインができれば、高度な水処理技術も必要。製造業が飛躍すれば、弊社にもチャンスがあるわけです。プラント建設だけでなく、オペレーション&メンテナンスを支援する活動を通じ、将来を担う技術者を育てていきたいです」。

 水をきれいにするプラント、水を運ぶポンプ&パイプラインは決して表に出てくることはないが、実際には人々の生活、そして命を支えている。不衛生な水を子どもたちに強要するような状況が続けば、この国に未来はない。ミャンマーの将来を見据えたとき、水というインフラの重要性がさらに高まることを期待してやまない。

大森 寛 [Omori Hiroshi]

Profile
1973年生まれ、愛知県出身。1995年、Kubotaに入社。廃棄物処理、排水処理、民需向け液中膜などの営業を経験し、初駐在は上海。2013年より東南アジア向け海外プラント建設の営業を経て、2016年にミャンマー赴任、現在に至る